■十月十七日


今日こそは告白をと意気込み、朝からチャンスを狙っていたのだが、何かと邪魔が入り彼を呼び出すことが叶わなかった。
ようやく四時限目になり、もうすぐ彼が弁当の包みを携えて応接室へとやって来るという頃になって、あろうことか校内で、以前から対立していた二つの派閥が喧嘩を始めたと言う知らせが入った。
喧嘩なら別の日にやって欲しい。こんな時でなければ、思う存分楽しめると言うのに。
草壁が気を利かせて、「他の風紀委員に行かせますから」と申し出た。
一瞬任せようかと考えたが、以前から目を付けていた対立だったため、やはり僕が行かないわけにはいかないだろうと思い直し、応接室を後にした。

手早くけりをつけ急いで応接室へ戻ると、いつものソファにもたれている沢田の姿が真っ先に目に入った。
声をかけたが返事が無い。近付いて顔を覗き込むと、どうやら眠り込んでいるようだった。
膝の上にあった弁当が落ちそうだったので、それをローテーブルに置き直し、揺さぶったり鼻を摘んだりしてみたが、よほど深く眠ってしまっているのかまるで起きそうにない。
諦めて隣に腰を下ろし、暫くその寝顔を見つめていた。その柔らかそうな頬を指先でつついてみる。
「こんな無防備に寝入っちゃって・・・襲うよ?」
無意識に漏らした独り言にはっと我に返り、顔が強張る。
何を言っているんだ僕は、と頭を左右に強く振ったが、煩悩を取り払う事ができない。いつしか僕はその寝顔にキスをしたくて堪らなくなっていた。
少しだけと、唇に、そして目元や頬に軽いキスを浴びせているうちに、ふと首を傾けているため剥き出しになった白い首元が目に入った。ゆっくりと視線をずらすと、暑かったのだろうか、ボタン三つ目まで開けられたシャツから見える鎖骨に目を奪われる。
コクリと喉を鳴らし、そっと首筋に顔を近づけた。
鼻先が触れるほどに近付けば、子供の体温を感じる。
沢田の甘い香りに誘われるように唇で触れると、小さく舌を動かし舐め上げてみた。
途端に、今まで押さえてきたものが体中を駆け巡り、痺れる様な感覚を覚えた。
止めようとする僕の理性はあっさりと奥に押しやられ、夢中で彼の首元を舐め回した。
ぼんやりとする意識と妙にはっきりと感じる下半身の甘い痺れとが葛藤を繰り返している。
そうこうしている内に僕は沢田の鎖骨を舐めながらシャツのボタンを下の方まで外し、胸元を乳首が見え隠れするほどに肌蹴させていた。
ぞくり、と悪寒のようなものが走る。
恐る恐る胸元を飾る可愛い尖りに吸い付いて舐め上げると、

「う・・・ん・・・」

突然頭の上から聞こえて来た小さな声に、思わず飛びのいた。
途端に自分の中に理性が舞い戻って来て、すうっと冷えた感覚を背筋に感じた。

あわてて彼のシャツを元に戻し、静かに、速やかに応接室を出た。

早足で、どれくらい歩いたのか分からないが、気が付けば校舎を出て校門の外まで来ていた。
どきどきと早鐘を打ったままの胸元をぎゅっと握り締めて、僕はそのままずっとそこで立ち竦んでいた。

何も知らない沢田は、放課後再び応接室にやって来たが、僕は触れるどころか目を合わせることさえ出来なかった。
視界の端に映る彼は、訝しげな表情をしていた。





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