■九月十四日


午前中、草壁が珍しく落ち着かない様子で応接室に入って来た。
「これが、校内で販売されておりました」
躊躇いがちに差し出されたのはA4サイズの茶封筒であった。
確かに校内での販売行為は禁止されているが、普段の彼らしからぬ様子に不審を覚え、黙って封筒の中身を机の上に広げた。

それらは全て、沢田の写真だった。

十数枚に上るであろうその写真は、一枚一枚透明の袋に入れられていた。笑っているもの、ぼんやりと頬杖をついている物、そして・・・着替え中であろうか、上半身裸の物まであり、それらは全て、校内で隠し撮りされた様だった。

「犯人には厳重なる処罰を与え、データも全て没収してあります」
無言で写真を見つめていた僕はその声ではっと我に帰った。顔を上げれば、草壁が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべており、驚くべき報告をした。

元凶は、三ヶ月ほど前、沢田に絡んだ不良共に僕が言った一言にあった。

「あの子、マフィアがらみだよ」
牽制のつもりの発言(しかも真実だ)が、いつの間にか「マフィアの愛人」などというバカバカしい噂になり、しかしそれはすぐに立ち消えた。
どうやら草壁が、自然消滅するよう仕向けたらしい。
しかし、生徒それぞれの中に残った妄想は完全に消えることはなかった。特に、男子生徒の中では。
もともと女子よりも可愛らしい顔立ちであった沢田に如何わしい目を向けるものが出始めたものの、それを表に出すものはいなかった。共学に通う男子生徒にとってそれは禁忌であり、自分自身認めるには勇気のいることなのだ。
しかし確実に、思春期男子の脳に刻み込まれてしまっていた。
そして終業式の日・・・あの憎むべき金髪。
校門の前で行われた、あれの過剰な愛情表現。それが引き金となった。
沢田は男だ。でも可愛い。堪らなくなる位。それから目を逸らす必要はない。だってほら。

あの外人も、あんなに彼を愛でているではないか。

「・・・で、この写真なんだ・・・」
はあっと深く溜息をつき、頭を抱えて考えた。
人間の感情を止める事は出来ない。ムカつきはするけれど。
しかし彼らの感情がエスカレートしていけば、いずれあのか弱そうな子に手を出そうとする輩も出てくるだろう。
確かに、額に炎を灯した沢田を考えれば心配する事もないのだろうが、何せあの鈍さだ。襲われている事にも気付かないかもしれない。

「とにかく、早めにどうにか手を打ちましょう」
考え込んでいる僕に草壁が元気付けるように声をかけ、売られた写真を早急に回収しに行くと部屋を出て行った。

応接室が静かになると、僕はもう一度溜息をつき窓の外に目をやった。
全く、何でこう次から次へと問題が出て来るんだ。
草壁が来てから何回目かの溜息をつき、とりあえず仕事を再開しようと机に向かうと、写真を片付けていなかった事に気付いた。

僕は無意識に、一番上に載っていた着替えの写真を手に取った。
考えてみると、彼の着替えているところなど見たことがない。それなのに同級生(男子)は体育の度に見ているのだ。

彼の薄い胸の上で、可愛らしいピンクが二つ色づいている。
それはまるで、僕に舐めて欲しいとねだっているようだった。
僕はごくりと生唾を飲み込むと、透明の袋から写真を抜き取り、柔らかそうな頬の部分に触れてみた。袋越しでないそれからは、彼の体温を感じる気がした。
体が熱を持ち、心臓の鼓動が早くなる。
僕は頬に触れていた指を恐る恐る下にずらしていった。
首元・・・鎖骨・・・胸・・・
そしてピンク色の部分に辿り着いたとき、指先にピリッと電流のようなものが走った。
左胸のピンクを、ゆっくりと円を描くように撫でまわすと、指の腹にこりこりとした引っ掛かりを感じるような錯覚に陥り、ひどく興奮する。
暫くそれを堪能すると指をそっと離し・・・その代わりに戸惑いながらも唇を近づけ・・・

ガチャン

もう少しで唇が写真に触れようかと言うところで、校庭の方から何かが割れるような大きな音がしてはっと我に帰った。
誰かの怒鳴り声を遠くで聞きながら、僕は呆然と写真を見つめていた。


小一時間して写真の束を取りに来た草壁は、A4の封筒がガムテープでぐるぐる巻きにされているのを訝しげに見ていた。





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