■九月十三日


十月初旬に行われる体育祭の準備で、校内は僅かに活気を見せ始めている。
生徒の中でもその日を心待ちにする者と雨天中止を望む者とに分かれている。沢田は勿論後者だ。
「こういうのって、得意な人だけがやればいいのに」
などと口を尖らせながら、以前の僕であれば即咬み殺しにかかるであろう台詞を吐く。
・・・まあ、言ったのが彼でなければ咬み殺しているかもしれないが。
しかし最近では、今まで目を向けることもなかったそういった・・・弱者の考えにも、多少は気付くようになって来た。理解までは出来ない。が、人間には不得意というものがあり、それに関しては誰もが消極的になるものだと言うことだけは分かった。(何しろ沢田は不得意分野が多い)

紅茶を口にしながら、向かいのソファに座る沢田の様子を伺う。
先週とは違い、彼はとても穏やかな空気をまとっていた。
先週より・・・いや、もっと前、あの彼の父親が来る前よりも。
なんと言うのだろうか・・・そう、落ち着いていると言う言葉がしっくり来る。少し大人びた様に感じるのだ。
だからこそ、誤解を解くべきかどうか僕は迷っている。
僕が好きなのは君だと告白したところで、彼は戸惑うだけかもしれない。
・・・違う。こんな事を言ったところで、全ては欺瞞に過ぎない。僕はただ、彼を手放す事を恐れているだけなのだ。


僕はこんなに消極的な人間だっただろうか?




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