■九月十二日


昼休み、沢田は弁当を携えて応接室にやって来た。
「・・・来ないかと思った」
思わず口をついて出た言葉に、彼はやんわりと微笑んだ。
「休み中、いろいろ考えて分かったって言うか・・・それでもいいやって思ったんです。それでも、俺にはもったいないくらいの幸せなことなんだろうなって」
すごく、すっきりしましたと笑う沢田の言いたいことはよく判らなかった。
が、何か自分が大変な失敗をしでかしたような気がして、訳の分からない焦りを押さえられない。心臓がまるで警告をするように早鐘を打ち続ける。
黙ったまま口を開かない僕を見て、沢田は穏やかな口調で質問を始めた。
「ヒバリさんの好きな人って、どんな人ですか?」
沢田は悩みも吹っ切れたと言うように楽しそうに話をする。
そう、もう辛そうな顔はしていないのだ。ならばこのままで善しとすべきだろうか。僕が望んだのは彼の笑顔なのだから。
そう自分自身に言い聞かせたが、喉の奥に詰まった鉛の塊は簡単に嚥下することが出来そうにない。
「可愛い人ですか?それとも綺麗な人?」
喉が渇ききって息を吐くことさえ困難だった。
答えなければ。この笑顔を、泣き顔に変えないために。
「・・・可愛いよ」
最初の一言を無理やり搾り出すと、胸の奥に詰まっていた言葉が次々と溢れ出して来た。
「人懐っこい所も、恥ずかしそうに笑う所も、何もない所で転ぶ所も、困ったような顔も泣き顔も、全部可愛い。でも・・・」
言葉を切り、沢田の零れそうに大きな瞳を捉えじっと見つめた。
「やっぱり、笑っていて欲しいんだ・・・」
大きく開いていた彼の目が、一瞬揺れた気がしたが、次の瞬間にはそれは笑顔に変わっていた。
「そっか」
それから沢田は僕に「好きな子」に関する質問をいくつかした。
僕はそれに正直に答えた。
彼はそうしなければならないとでも言うように、休む暇もなくその会話を続けた。
「そそっかしい所だけは、ちょっと俺に似てますかねえ」なんて笑いながら。



・・・恐れながら委員長、
誤解は早めに解いておいた方が良いと思われます。



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