■九月九日


中休み、2−Aの教室を訪れ、沢田ではなく笹川を呼び出した。
勿論僕がわざわざ教室まで赴いたのは、沢田に見せ付けるためだ。

僕の呼び出しに教室内がざわつく。沢田を呼び出した時には静まっていた教室が、女を呼び出した時だけ沸いた事にムカついた。
沢田は下を向いたまま、こちらを見ようとはしなかった。

応接室に招くのは嫌だったので、屋上に連れて行った。
「これ。悪いけど受け取れない」
風の強い屋上で向かい合うと、昨日の手紙を取り出し彼女に突き返した。
彼女はちょっと悲しげな顔でそれを手にすると、眉を寄せて笑った。
「御免なさい。付き合いたいとか考えていた訳ではないんですけど・・・ただ、知っていて欲しくて」
以前の僕なら一笑に付していただろう台詞も、今なら半分くらい(僕なら付き合いたいと思う)は共感でき、冷たい扱いも出来ない。
しかし、だからこそ、曖昧なままにも出来ないのだ。
「こういうの、あの子に頼まないで。誤解されたくないから」
「あの子って?」
きょとんとした顔で聞き返されたが、それ以上は言わなかった。
と、「あの子」の正体に気付いたのか彼女の顔が見る見る赤くなり、僕は反射的に目を逸らしてしまった。別にばれたところで問題はないのだが、何となく居た堪れない。
気まずい思いをしていると、急に両手を掴まれてぎょっとした。
見れば彼女が目元を潤ませ、僕の手を握り締めている。
「応援します!」
「・・・は?」
先程振られたばかりの筈の彼女は何故かとても興奮しているようだった。
・・・多少は共感できると思ったが、やはり女の考えている事は分からない。

彼女を教室に送っていった時には、すでに次の授業は始まっていた。
僕らが姿を見せるとやはり教室はざわめいた。
彼女を教室に戻すのと交替で沢田を呼び出した。もちろん、教師から咎められる筈もない。
のろのろと腰を上げた沢田の手を取って応接室に連れ込むと、彼は困ったような表情で僕を見上げた。
「断った」
「え」と小さく声を上げると、じっと僕を見つめる。
「もしかして・・・俺のこと気にして」
「違う」
沢田を気にした事は間違いではないが、彼の言うような意味ではない。
「好きな子じゃないから断った。当然のことだ」
しん、と沈黙が走った。互いに見つめ合ったままで。
「・・・好きな人、いるんですか?」
「いるよ」
君だ、と続く言葉を飲み込んだ。
こんな最悪な雰囲気の中、告白などしたくない。
「そうですか」と呟き俯いてしまった沢田の頤に手を掛け上を向かせると、イラつきをぶつける様に唇を奪った。
いつもより少し乱暴に口腔を犯したが、沢田はされるがままになっていた。
唇を離して最初に目に入った彼の顔は、ひどく悲しそうだった。
「ヒバリさん、好きな人いるのに、こんなこと・・・」
「やめない」
きっぱりと言い切る僕を見て、沢田は深く溜息をついた。
「矛盾してる・・・」
ぼそりと呟き、黙り込む愛しい子供。


矛盾などしていない。


全て、君だけだ。






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