■九月八日


今日も来ないかもしれないと思っていたので、昼休みに彼が応接室を訪れたことに心底驚き、同時に不安が広がった。
こんな状態での訪問だ。良い知らせな訳はない。

沢田が黙って僕に差し出したのは、薄紅色の封筒だった。彼のものではない筆跡で「雲雀恭弥様」と書かれている。
僕は何も言わず受け取り、彼の目の前でそれを広げて目を通した。
差出人は・・・笹川京子、だった。
「何で、君がこれを渡しに来たの?」
顔を上げ、俯く沢田を見つめながら不機嫌を隠さず尋ねた。声のトーンが低くなるのを抑えられない。
「・・・頼まれて」
「頼まれたら何でもやるんだ。・・・彼女の事が好きでも」
沢田ははっと顔を上げた。そこには驚きの表情が浮かんでいた。
「違う・・・違うんです・・・」
否定をする言葉が小さくなり、また彼は黙り込んでしまった。
沈黙が続く。

「もういい」
小さな溜息と共に吐き出した言葉は、自分でも戸惑うほど冷気を漂わせていた。
「これちゃんと受け取ったから、帰っていいよ」
視線を逸らしそう言ってやったのに、沢田は動こうとせずいつまでも俯いたままだった。
僕はもう一度溜息をつくと、立ち竦む彼を残し応接室を出て行った。






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