■九月一日


新学期が始まった。
台風の影響のせいで空はどんよりと曇っていた。
僕は朝の風紀検査のために校門前に立ち、あの子が来るのを心待ちにしていた。
閉門の五分ほど前になり、ようやく遠くから彼の姿が見え始めた。
駆け寄って抱きしめたい気持ちを抑え、門を通り過ぎる沢田にさり気なく「おはよう」と声をかけると、彼は俯いたまま小さな声で「おはようございます」と返事をし、そのまま僕の顔も見ずに通り過ぎてしまった。
とりあえず親公認となった事で浮き足立っていた僕は、沢田もまた毎日応接室で会えることを楽しみにしているとばかり思っていたので、そんな彼の態度に疑問符ばかりが浮かんだ。
焦りを覚えつつも、放課後沢田が来るのを落ち着かない気持ちで待っていると、やがて彼の足音が近づいてきた。
いつもよりゆっくり目のその音は応接室の前で止まったが、いつまで経ってもノックの音も入ってくる気配もない。
痺れを切らした僕が席を立ち扉を開けてやると、俯き加減に立っている沢田の様子は明らかにいつもとは違っていた。
いつまでも入ろうとしない彼を室内に招き入れ扉を閉めると、肩に手を置いてその顔を覗き込んだ。
「お父さんに、何か言われたの?」
と尋ねると、無言で首を振る。
いつまでも口を開こうとしない沢田にどう声をかけてよいのか判らず、彼の頭を肩口に引き寄せふわふわの髪の間からその頭皮に何度も口付ける。
暫くするとずっとされるがままだった沢田が微かに身じろいだ。
「・・・ヒバリさんは、どうしてこんな・・・」
「・・・え?」
僅かにしか聞き取れなかった言葉を残して、沢田はまた口を閉ざしてしまった。



・・・恐れながら委員長、
沢田さんと一度よく話をしてみた方が良いのでは・・・?




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