■八月三十一日


ノックの音に、休みの連絡を受けていたにもかかわらず、あの子がやって来たのだと思い慌てて応接室のドアを開けると、目の前にはあの無精ひげの男が立っていた。
「・・・そんなに、あからさまに嫌な顔をしなくてもいいだろう」
「笑顔で出迎えて欲しいの」
期待をした分だけ不機嫌は増し男に背を向けて机に戻ると、彼は当然のようにソファーに腰を下ろした。
そこはあの子の席だ。
暫く難しい顔をして腕を組んでいた男は、やがて静かに口を開いた。
「非常に残念だが、俺はもうイタリアに帰らなければならん・・・しかし、うちの可愛い息子が俺の留守中にどこぞの狼に襲われでもしたらと思うと、居てもたってもいられず、日本最後の一日だと言うのにわざわざ来てやったというわけだ」
低く真剣な声でそう言い、ドン、と大きな音を立ててローテーブルに置いたのは・・・酒瓶、だった。

「だからなあ、あいつはちっちゃい時から、変な親父どもに付け回されんだよ・・・あんな天使みたいに可愛い子だからなあ、しゃあないいちゃしゃあないんだろうけどなあ、帰る度に群がってる奴ら駆除してんのに、また新しいのが出てくんだ。さすがに大きくなって警戒心も出てきたせいかそういう事も少なくなっては来ているが、留守が多いとおちゃんにしてみたら心配で心配で・・・」
と嘆く酔っ払いに、思わず共感してしまう。
ああその頃から彼を知っていれば、そんな奴らを近づけやしなかったのに・・・。
「そういう訳でだな、腕っ節の立つ護衛が側に居てくれたら、とおちゃんどんなに安心か・・・」
ちらりとこちらを意味ありげに見上げる視線に、はっとする。
それはつまり・・・親公認?
こほんと一つ咳払いをすると、視線を泳がし言った。
「まあ、僕としては言われなくともそうするつもりだけどね」
「そうか!」
男は合い向かいのソファーから身を乗り出し、がっしりと僕の両手を掴んで力をこめた。
「お前のような男が側に居てくれれば安心だ。俺が留守の間、ツナを頼むぞ!」
そう言われると悪い気はせず、さっきまでの不機嫌は忘れて男の手をがっしり掴む。
和やかな空気の中、僕は思っていた疑問を口にした。
「でもなんで突然、僕に任せる気になったの?」
男二人手を握り合ったまま、男はにこやかに言った。
「リボーンが太鼓判を押したからな。あの人を褒める事のない男が、お前のことはいたく気に入っているらしい。」
さすが赤ん坊、見る目がある。
「今度の雲の守護者はえらく強いが、イロコイにはヘタレで、あと十年は好きな奴に手を出せないだろうと・・・でっ!!」

掴んだ両手から、ボキボキと骨の砕ける音がした・・・。




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