■八月三十日


今日も来ない。
理由は「家庭の事情」だ。
あの男、何処まで邪魔をする気なんだ。
報告をしに来た草壁に「今日は先に見回りに行く」と言い残すと、学校を出、沢田の家へ向かった。

一階からは相変わらずにぎやかな声が響いている。
塀を乗り越えそのまま二階の彼の部屋の窓を開けたが、誰もいない。
僕は窓を乗り越えて部屋に入った。彼のベッドに座ると、日曜日の出来事が思い出される。このベッドに押し倒された時、彼は何を思っただろう。あの時抵抗らしい抵抗は見られなかった。それはいつもの応接室でのキスと変わりが無いと思ったのだろうか、それとも・・・。
マットレスの、日曜日に彼が座っていた位置を慈しむ様にそっと撫でていると、ドアの外からとんとんと軽いリズムの足音が聞こえてきた。
沢田の足音だ。
ほぼ毎日、応接室で聞いているのだ。それくらいは分かる。
ドアをあけ入って来た沢田に「やあ」と声をかけると、驚いた顔を見せてから慌てて後ろ手にドアを閉めた。
「ヒバリさん、何で・・・」
「補講だろうと、サボりは許さないよ」
にやりと笑ってトンファーをちらつかせると、沢田は困ったように眉を寄せて僕の隣に腰を下ろした。
「あの男に監禁されてるの?」
「いや、監禁って言うか・・・そういう訳じゃないんですけど・・・」
「じゃあ、何で来ないの」
横から沢田の顔を覗き込む。近い位置で目が合うと、彼は頬を紅くして視線を逸らした。
「と、父さん、なんか誤解してるみたいで・・・俺とヒバリさん、こっ」
ごくり、と唾を飲み込む音がした。
「こ・・・いびとなんじゃ、ないかって・・・いや、そんな筈ないですよねえ、はは」
・・・なんで、そんな筈ないんだ。
頭から否定してかかる沢田にむっとした。
沢田はちらとこちらを覗き見、そんな僕の様子に気付くと、また下を向いてしまった。
「御免なさい・・・新学期には、ちゃんと行きますから・・・」
俯いたまま謝るその横顔が何故だか泣きそうに見えて、僕は何も言えずに彼を見つめることしか出来なかった。




prev next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -