「ねえ、深山木薬店ってどこか知ってる?」
「……お客さんですか?」

日本にはじめてきて盛大に迷った。あらゆる人に目的地の場所を聞いても誰も知らないとか分からないとか曖昧な答えを返すばかり。人もいなくなってきたしとダメもとで公園にいた小っちゃい男の子に聞いたら案外知っていた。どうやら従業員だったらしい。ラッキーすぎ。

「君名前は?」
「リベザル。」
「……そう。私は未夏。よろしく。」

名乗った男の子はまだ小っちゃい。いきなり弱みともなる種族名を言うのは些か不用心だけど、男の子が純粋過ぎそうなので黙っておいた。シレジアの幽霊を見たのは初めてだった。

「リべくんはどこの国の子?」
「ポーランドです!」
「へえ…私の友達もポーランドにいるんだよね。いいところ?」
「はい!自然がいっぱいです。」

いろいろ話しているとぼろぼろの一軒家に着いた。え、まさかと思う間もなく私の目に入ってきたのはぺらりと薄汚い半紙に書かれたミミズがのた打ち回るような字の深山木薬店という文字。
こんなところに人が住めるのか…

「うーん。趣味悪いなぁ。」

棚が並んでいるその店内。一番恥の通路を通ったのに通路を出ると一番真ん中にいた。なんだ魔法かこれは。部屋の前にぽつんと汚い机が置いてある。奥に階段が見えた。

「オレ、師匠呼んできますね!」
「うん、ありがと。」

ぱたぱたとリベくんが走り去って一人になった間に周りの棚に置いてある薬草だの怪しい像だのを眺める。汚い腕の木彫りだの、鮭咥えた熊の木彫りだの、あやしいしなびた草。

「趣味わる…」
「余計なお世話だ。」
「ん、あぁ。ごめん、ごめん。」

久しぶりに見たシンは前よりやっぱり少し幼くなっていてなんだかおかしかった。私の師匠で偉そうでむかつくシンが私より年下に見えるのがなんだか新鮮だった。

「で、何の用だ。お前が僕に会いに来るなんて珍しい。」
「うん、ちょっと話が合ってさぁ。」

不機嫌そうに顔を歪めて汚い椅子に腰かけて頬杖をついた彼の顔は昔と打って変わらず大変整っていた。髪がセピア色になっている。昔からこの人は良く髪の色をころころ変えていた。

「あと、1000年くらい?」
「なにが。」
「あんたの寿命よ。細胞が退化して消滅するまでの時間。」
「あぁ、その見積もりは正しいだろうな。」

腹立たしい、と言ってシンはぱちん、と指を鳴らす。手にチョコレートが出てきた。その手品も相変わらずだった。チョコレートはどうやら私にはないらしい。腹立たしい。

「血、あげようか?」
「馬鹿言うな。」
「そういうことじゃなくて。あんただって解ってんでしょ。呪いを解く糸口。」

細胞を体化させると同時にシンの人に対する情報の記憶能力が極端に衰えた。それはつまり彼の父親が歪んだ愛でかけた呪いは彼の脳に影響を及ぼしているということ。そして私たちの血を飲めばという条件により、血になんらかの解毒作用をもたらしていることがわかる。だから、それを調べさせてやると言っているのだ。

「へぇ。僕がこの場でお前の血を飲み干すかもしれないとは考えないわけ?」
「考えてないかなぁ。それに私は夏林と一緒だよ。」

あんたにだったら、殺されても多分いいと思う。

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