私を拾った親代わりだった彼が死んだ。
『よう。なんでこんなとこで死んでんだよ。』
行き倒れて人を殺し、返り討ちにされた。赤い女にぼろぼろに負かされて暫く道端に倒れこんでいると私の頭をぐにゃりと踏んでその男は陽気に私に話しかけた。
なんだこいつとちらりと地面から這いつくばった状態で視線を走らせると彼は妙な笑い声をあげた。端正な顔立ちに燃え盛る火のような笑顔を浮かべていた。
私より二十も年上だった彼は私に衣服をくれた私に食べ物をくれた私にお金をくれた私に知識をくれた私に、名前をくれて、私に幸福を知らさせた。
その彼が昨日、ぐちゃぐちゃにされた。
『なぁ、お前暫く旅行行ってこいや。』
一週間前、私に背を向けてそう言った彼を思い出した。旅行に行きたいと最初に言い出したのは私だった。彼はそれを何故かとても渋っていて、でもやっと許してくれたんだ、と特に何も考えず、私は旅立った。
帰ってきたら、彼はぐちゃぐちゃにされていた。
彼の死体を前に、私は笑う橙色を見た。
「あとひとーぉり。」
床に飛び散った大量の血を蹴り飛ばすとかべにぐしゃりと赤が散った。
違う、と思った。
もっともっともっともっと、ぐちゃぐちゃにめちゃめちゃにめちゃくちゃにこの世の赤い有象無象をすべてかき集めたかのように、もっと激しくもっと派手にもっともっともっともっと、ずっとひどく赤く、もっともっともっともっと、ぐちゃぐちゃにめちゃめちゃにめちゃくちゃにこの世の赤い有象無象をすべてかき集めたかのように、もっと激しくもっと派手にもっともっともっともっと、ずっとひどく赤く、内臓なんて書き出されて顔なんて潰されてて手足は違う方向に折れていて、もっと赤く、もっとぐちゃぐちゃで、もっとめちゃめちゃで、もっとめちゃくちゃで、もっと派手で、もっと激しくて、もっともっと、ずっと、ずっと、酷く――彼は美しかったのに。
「あと一人、」
一日一殺。二か月間それを続けてとうとうあと一人になった。こんなに殺してもまだ心は晴れない。彼をあの代々に売った奴らを殺してもまだこの体の中全てを掻きむしりたいほどのイライラは止まない。それはまだあの橙を殺していないからだ。
気休めだ。殺した後に必ず人数を数えるのもそのあとにつぶやく言葉も。私は彼のために彼らを殺したんだと理由づけして正当化しているだけ。零崎なんだから、理由なんてないほうがずっと正当性があるのにね。
彼の仇討なんてしてるって彼に解ったら彼はきっと私を殺すと思う。きっと叱ると思う。でも、それを彼が望んでいるんだと思い込んで、これは彼のためなんだと言い聞かせて、私は今日もこの言葉をつぶやく。
「リル、あと少しだよ。」