ヒソカはそろそろ元の世界に帰るようだった。日に日に透けて触れることができなくなる体に当然私は寂しさを感じていた。ヒソカと話すのはなんだかんだ新鮮で楽しかった。ヒソカは私が今までにあったことがない、そしてこれからもあうことはないだろう人種であったから。

「成績、落ちたわね。」
「……すみません。」

母に厳しい声を向けられている間も頭をよぎるのはひそかにあの気軽そうな調子で言われた言葉。たった一言、でも私には相当の重みをもつ言葉。あぁ、こうしている間に部屋に帰ったらヒソカがいなかったらどうしよう。
そこまで考えて思わず笑ってしまう。あだ名が鉄仮面の私でも感情はあるんだね。

「……ヒソカ。」

部屋に帰るとヒソカはますます薄くなっていた。話しかけられるまでどこにいるのかさえ視認できなかった。ベッドの上に胡坐をかいているヒソカは来た時の格好のまま、まるで今にも消えてしまいそうだった。

「そろそろ君ともお別れかな。」
「……そうだね。」
「この前言ったこと覚えてる?」
「そりゃ、ね。」

あんな今まで考えもしなかったこと言われたら忘れてらんないわよ。苦笑しながら言えばヒソカは私の眼前にぴ、と人差し指を立てた手を突き出した。爪がピンクにペイントされていた。

「君には今二つの選択肢がある。」
「そう。……それで?」
「一番、これからもつまーんない人生を送る。」
「素敵ね。」
「二番、思い切って辞めちゃう。」
「波乱の幕開けだわ。」

指が増えた。その手を下してヒソカはベッドから降りて私に近づいた。改めて向かい合うと身長の差が目立つ。首が痛くなるほど見上げればヒソカはいつも通り何を考えているのか読めない笑みを浮かべていた。こんな至近距離で変態の顔を見るのは初めてだった。

「どれにする?」

首を傾けて私に聞くヒソカは今度は悪戯っぽい笑みを浮かべてこちらを見ていた。私はヒソカと反対方向に首を傾け、今まで人生で浮かべたことのない笑みを浮かべた。

「隠れ三番ね。」
「そういうと思ったよ。」

ヒソカの腕に抱かれたのは初めてだった。男の典型、堅い筋肉に男らしい胸板。顔も端正だし、変態なのが難点だけど、案外悪くないかもしれないわね。

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