彼、真田幸村の席は愛のすぐ横だった。そして更にその横に猿飛佐助。
「よろしくお願いします。私は榊元あいと申します」
「あい殿ですな!よろしく申す!」
愛は見逃さなかった。彼の奥に座る猿飛佐助の眉が、少しだけしかめられたのに。そして彼がちらりと自分の左手の薬指に視線を走らせたことに。
「……今日、一緒に昼食を食べませんか?」
「?よいのですか?」
「……ええ。紹介したい方がいるのです。」
「佐助も一緒でよろしいか?」
「元よりそのつもりで。」
彼が嬉しそうに頷いたのを見て思わず、笑ってしまった。
あぁ、なんて。なんて。


「正宗様!」
「あぁ、愛姫。早く……、」
愛を見て、いや彼女の後ろにいる彼を見て、正宗は動きを留めた。そして周りの者たちも。こわばったように動きを留めている。正宗も、そして真田幸村も。ただ、ただ愛姫だけが、ゆるく微笑み、目を閉じていた。
「―――ッ!」
だっと駆けだしたのは幸村だった。脱兎のごとく走り去る。
「――、幸村ッ!」
彼もそれに反応し走り出そうとする、そして彼女を通り過ぎて少し立った後、はじかれたようにその動きを留めた。焦ったような、泣きそうな、困った顔で彼女を振り返った。彼女は彼を見ないまま、言う。
「行ってください。」
「あい、ひめ。」
「行ってください。彼が、愛した人なのでしょう?」
否定する理由ならいくらでもあった。彼は自分と似通っているところもないから。彼は男だから。自分の愛する方がいかにも嫌いそうな人種だから。でも、でもそれ以上に。それ以上に、彼と自分が似通っているところが、あまりにも、大きすぎた。
「早く。また、見えなくなってしまうのは、嫌でしょう?」
その声に押されたようにして正宗は駆けだす。残ったのはまだ微笑んでいる愛姫と幸村の友人の佐助、成実と正宗と成実の友人たちだけ。
「愛姫、」
「私、今日はもう帰りますわ。」
「愛姫。」
「心配なさらないでください。サボりたいお年頃なんですのよ。」
いままでさぼったことなんかないくせに、なに言ってんの。成実は小さく呟いた。彼女の声色には驚くほど悲しさや悔しさが込められていなかった。彼女が言うことはきっと、全部本心なのだろうか。
成実たちには彼女の後姿を見送ることしかできなかった。


「あら。正宗様。」
感動的に分かれたのにまた会ってしまいましたわね。苦笑してニコニコ笑顔を向ける愛に僅かに正宗はたじろいだ。幸村は横で泣きそうな顔をしている。しかしとうの本人あいはにこにこにこにこと笑ってあ、そうだと思いついたかのように自らの左手の薬指に付いていた指輪をはずして幸村の左手を手に取った。
「あ、愛姫殿?」
「これは幸村様に合いますわ。あらサイズがぴったり。」
そしてその薬指に自分の正宗との婚約指輪をはめた。そしてまたにこにこと。笑う笑う笑う。その美しい笑みに幸村は思わず涙をにじませた。
「あ、いひ、めど、の………ッ!」
「あらあら、お泣きにならないで!私に申し訳ないなどと思う必要はないのですよ。幸村様。どうかこれからはお二方とは良いお友達に、ご相談相手になりたいもの。だからどうか、私に何も思わないで。」
ハンカチを出してそっとこぼれた涙を拭う。その様子に正宗がふっと笑った。その笑みは呆れたようにも、安心したようにも取れた。
「で、お前は何でこんなとこに居るんだ。今授業中だぞ。」
「さぼりたいお年頃なんですのよ。今日は独りで返ります故。お伝えお願いしたくおもいます。」
そういってスキップでもしそうなくらい浮だった足取りで去っていった。


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