頭にその考えが浮かんだのはとてもずいぶん前からのことだった。それは決まって俺が恐れをなした時、臆病になった時、悲しくなった時、悩んでいるとき、疲れているとき。決まって誰かが囁くように俺の耳元でその声は鳴った。その声が聞こえるとき、決まって鈴の音が聞こえた。きっと狐が俺を化かしているんだと思った。

俺はもちろんその考えがばかばかしいと思ったし、世話になっている上司や命を救ってくれた同僚を裏切るなんてとんでもない、それにまずそんなことする理由がないじゃないかと思っていたが、それが聞こえ始めてから俺がそれは俺が心の底で望んでいることなんだと気づくのにはそう時間はかからなかった。

局長や副長、隊長や監察の山崎など、俺を昔から知っている人たちは俺を疑うことをしない。昔馴染みだとか、そういう理由からだと思うけれど、それは俺を嬉しくさせるのと同時に最近になってひどく苦しめ始めた。

俺は真選組に入れることに誇りを持っていたし、仕事に命を懸けるに値すると思っていた。それは組員だったら当たり前の感情だった。けれど俺はその誇りに泥を塗った。俺は今この仕事に命を掛けられると自信を持って言えなかった。

「よお。」

町で昔からの幼馴染にあった。銀色の髪をキラキラ輝かせた彼は、昔からの俺の憧れだった。それはほかの三人の昔の仲間にも言えることで、彼らは俺には持てない輝きを持っていた。

「最近どうよ。」
「んー。普通。デスクが多くて体が鈍ってるよ。」

苦笑いすれば何かあったのかと聞かれた。二十年来の付き合いで、俺の嘘なんてオミトオシらしかった。でも上司と親しくしている彼に自分の気持ちを打ち明けるなんてとてもじゃないけれどできなかった。尤も、ある程度は彼には気づかれてしまっていると思うけれど。

高杉にあったと彼は言った。戦うことになると思うととも彼は言った。

多分彼は高杉に次会ったら、本当に言葉通り斬るのを躊躇わないと思う。あいつは変わってしまった。変わってしまったあいつは自分の大切なものをも脅かす。だから切る。シンプルな感情。強い芯を持った人間だからこそ持てる感情だった。

それは俺が昔から憧れた、俺が持てない輝きだった。


俺は高杉とある意味一緒だ。過去の柵にまとわりつかれて正常な判断力を失っている。ただ、高杉と俺の違う点は、高杉は前に進んでいるということ。

俺は、ずっと立ち往生。
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