塩味の水
しばらくうつむいてじっと足元を見つめていた。月の光で土が白く見える。
ふと見上げると、斉藤さんがじっとわたしを見つめていた。眉を少し下げて、とても、とても切なそうな顔をしている。
きっと私も、そんな顔をしているんだと思う。
「……そんな顔をするな。」
斎藤さんが一緒にいれば、ずっと寂しかったのがなくなった。斎藤さんがずっと一緒にいてくれれば、きっとあんな思い、しなくて済むと思った。
会いに来るといって来てくれなかったあの人のことも、斉藤さんが一緒にいてくれれば、それだけで良かったの。
「私、斎藤さんのこと、大好きだよ。」
「……俺もだ。」
家族みたいだった。ずっと一人だった、冷たかったあの家が、暖かくなった。
大好き、だった。
ぎゅ、と抱き締められた。
暖かかった。
苦しくなった。
どきどきした。
「斎藤さん。」
「……あぁ。」
「斎藤さん。」
「……あぁ、ここにいる。」
行かないでなんて言えないよ。
斎藤さんを、困らせちゃうもん。
「あき。」
「……。」
「言いたいことがあるなら、言ってくれ。」
「……」
「……」
「……斎藤さん。」
「あぁ。」
「……行かないでよ。」
「……」
「……行かないでよ!!」
「……すまない。」
言いたくなかったよ。
言ったら困らせちゃうもん。
言いたいことじゃなくて、ただの、我儘になっちゃうじゃん。