闇に浮かぶ赤い光
「斎藤さ―ん!!早く早く!」
今日は島で年に一回のお祭りだ。人が少ないだけにあまり大規模じゃないけれど行事が少ないこの島では島内の全員が参加する数少ない行事だった。
母が昔着ていた藍色の着物を出して斉藤さんとお祭りに向かった。
「あまり急ぐな、転ぶぞ。」
履きなれない草履でたどたどしくなる足元。斎藤さんの着物の袖を軽く掴みながら歩く。でも一年ぶりのお祭りに逸る気持ちが如何しても抑えられなくて進みは速くなった。
暗い夜の中に遠くでぼんやり赤い提灯が光っているのが見えた。人のざわめきも聞こえる。
屋台もあるけれど、それが目当てでお祭りに行くわけじゃない。
八時から花火があがる。この祭りの目玉の花火は百連発上がる。
「早くいかなきゃ八時に間に合わないしー。」
「あの山の上だろう?間に合わないことはないだろう。」
花火を見るのに絶景の場所がある。
島で一番大きな山の中腹にある地主神社。その鳥居の下から見ると花火がきれいに見えた。
「着いた―!!!」
「島全体が見えるな……」
鳥居の下の階段の冗談に並んで腰かけて座る。
石の床に手をついて座る斉藤さんの左隣に座り、その左手に右手を重ねるとその手は驚くほど冷たかった。
きゅ、と斉藤さんの手に力がこもって私の手を握り締め勢いよく体が引かれた。
手は冷たいのに体はとても暖かくて自然と涙があふれてきた。
「すまない、」
「……はは、なにが?」
「……何がだろうな…」
なにがなんてわかってるよ。
ほんとはわかってる。
「ごめんね、私、斉藤さんのこと困らせてばっかりだね……」
「そんなこと……」
『俺はどこにもいかないから』
夢を見て泣いていた私を斉藤さんは今みたいに抱きしめてそう言ったね。
ごめんね。そんなの無理だって解っていたけれど、そういったら斉藤さんを困らせちゃうから。