質問する


「……聞いてもいいか?」
「なあに?斉藤さん。」

運動会が終わって家に帰り洗濯物を畳んでいると洗い物をしていた斉藤さんにいきなり問いかけられた。

「一昨日、泣いた理由、を」
「あぁ……」

あの日私がわけもなく泣いた理由を斉藤さんが知りたがっているのをなんとなく私は感じていた。聞きたくても私に気を使って聞きあぐねている感じだった。

洗濯物を畳んでいた手を止めて本棚に手を伸ばす。そこから一冊の薄い本を取り出した。そしてその二番目のページを示す。

「写真、か?」
「うん。この人、いるでしょう。私の隣にいる人。私が五歳のころの写真。」
「あぁ。」
「この人と私、多分ずっと一緒にいたの。」
「……多分?」
「うん。誰だか覚えてないんだよね。名前も、顔もこの写真がなければ思い出せない。でもこの人と別れるときにね、この人私に言ったの。また会いに来る、って。」
「会いに、来る……」
「この島はさぁ、あったかくて、バカな私でも受け入れてくれる。過ごしててつまらないとか感じたことなんてないんだ。」

八歳の時にこの島に来て、お母さんはこの島に帰ってきただけだけれど、私はこの島にとって新参者だった。周りの友達とはすぐに仲良くなれたし、学校でもうまくやれた。

でも、前の学校の友達は連絡するといってしてくれなかったし、再び会うこともなかった。そういう人と人の関係性の薄さを感じたことを、思い出してしまうことも稀にあった。

そういう時、決まって。


「思い出すんだぁ……この人のこと。」
「……」
「もう、会えない気がするんだけどね……」
「そんなことはない!!」
「え?」

がばちょ!

「ちょ、斉藤さん!?」
「きっと、いや絶対また、そのものと会える!」
「ふふ……斉藤さんにはわかるんだ。」
「あぁ、わかる。」
「そっか。」
「あぁ。」
「………ありがと。」

でもね、その人と会えなくても、斉藤さんがずっとそばにいてくれれば、きっと寂しさなんて感じないと思うんだ。

そんなこと言ったら、斉藤さんが困っちゃうから言おうとも思わないけれど。


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20111215




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