哀愁する

『ごめんな、あき……ほんとにごめん……』

別にいいよ、×××。しょうがないもん。
私たちがどうにかできることじゃないもん。
しょうがないよ。

『ごめん……絶対、絶対また会いに来るから、』

うん、うん。待ってるよ。待ってるから。
絶対。

『あぁ、絶対。』

絶対だよ。

『必ず。』

会いに来て。

『会いに来るから。』





「―――ん」

あぁ。誰だっけ。待っててって言って、私も待ってるからって返して。じゃあ一体私。
誰に言ったんだっけ――?

「そ、―じ。」

誰だかわかんないよ。顔も忘れかけちゃってるの。
誰だかわかんないよ。でも、会いたい、会いたいよ。

この一人の家にいると、時々頭が狂いそうになる。





「あき…、あき!!どうした!?」
「ん、……あ、斉藤さん……」
「……どうした、なにかあったのか…?」

何もないよと言って首を振って起き上がると部屋の床だった。どうやら床の上で爆睡していたところを斉藤さんが起こしたらしい。

「なんでもないわけあるか」

そういって斉藤さんは少し顔をしかめて私の眼もとに手をやった。その手は驚くほど冷たくて私の目元の何かを拭ったのが分かった。

「泣いている。」
「……ほんとだ。」

泣いたのなんて何年振りだろう。この島に来てから毎日が楽しくて、さみしさなんて感じたことは少なかった。

「なんで、思い出しちゃったんだろね……」

誰だかわからないけれど必ず会いに来てくれるという約束。
それは多分かなうことはなかった。

「なにか…嫌な夢でも見たのか?」
「ううん…良い夢、かな?」

少し笑って呟けばぐい、と体が引かれて斉藤さんに抱き寄せられた。手はとても冷たいけれど体はとても暖かくて、買ったばかりの安っぽい藍色の着物の端をつかんで肩に頭を置いた。

「斉藤さん……」
「……」
「さいとうさん……」
「あき。」
「ん?」
「俺はここにいるから。」
「……」
「本当に。俺もここが好きだから。」
「……本当に?」
「本当に。」
「……斉藤さん?」
「なんだ。」
「ありがとう。」
「……あぁ」



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20111214




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