相変わらず、私がケースを開けることはなかったけれど、返ってきた宝物は私の声と一緒に帰ってきてくれた。四ヶ月もの間話していなかったからだろう。まだあまり話す感覚に慣れず、まだ多くは前のように筆談だった。

『お酒、なくなってるので買いに行きます。』
「あら、ありがとう。まだ明るいけど気をつけなさい。」

お酒の買い出しは少し遠出する。いつもの倍以上のお金とお酒の銘柄が書かれたメモをギュ、と握り締めて、少し緊張しながらお店から出た。
電車にのって30分。都心に近づくにつれて人は多くなり、久しぶりの混雑に降りるときには息も絶え絶えになっていた。
駅を降りて更に20分くらい。デパートやらブランド店な並ぶ中、私の目的のお店は、周りと遜色無く厳かに建っていた。

黒の大理石でできたその高級酒屋に入るとひんやりとした寒いくらいの冷気が肌を刺した。私がいる一階にはワインが保管されていて、その保管には少し寒いくらいが丁度いいらしい。

「す、すみません…―」

蚊の鳴くような声をあげると奥から年配の男性が出てきて、ハルさんに渡されたメモを渡すとかしこまりましたと言ってどこかへ行ってしまった。

待っている間手持ち無沙汰に辺りを見渡し、そしてその視線を何気なく外へ向けた。

(…あれ、千尋さん?)

確かにそうだ。いつもと違う、黒のスーツだけどあれはたしかに彼だ。茶色の髪も黒縁の眼鏡もいつもと変わらない。

「ぁ……」


千尋さんの横には、女の人がいた。ストレートの茶色の短い髪。黒いワンピースか伸びるすらりとした眩しいほど白い四肢。

親しげに腕を組ながら歩く彼等。
異質。
彼女に見せる千尋さんの笑顔は明らかに異質だった。



人を、愛しく思う笑顔。



「千尋ぉ?あ―あいつ金持ちだからなあ。女なんてより取り見取りだろうなぁ―」

まぁ婚約者、いるらしいけど。


レイさんの答えは私にとっては予想できていたことでそこまでの衝撃はなかった。
ただ、息がしづらくなった。

『令さんは彼女とかいないんですか?』
「ん―さっきフラれてきた。」

涙ながらに歎く令さんの話しを聞いていると頭のどこかを昼間の令さんの笑顔が掠めて泣きそうになった。



その日千尋さんは来なかった。布団を敷きながら昼間の事を思い出す。明らかに美男美女。人目をひいていた。

「今日来なかったわね。」
「……!」
「千尋、」


頭が痛くなった。


「結婚するそうよ。」


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もう令でいいじゃん←

20110708








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