俺と晋助がどんな関係かと問われればそれはどうにも説明しがたかった。ただの幼馴染と言うには親しすぎたかもしれないし、親友と言うにはお互いのことにあまり興味がなかった。仲間と言ってしまえばいいのかもしれないけれど、それのようにあまり暑い関係ではない。だったらなんといえばいいのかと問われれば、俺は一番、家族という言葉がしっくりきた気がした。

「――っは、」

走った。痛む足と頭と腹を我慢し、着流しのまま走った。前日の雨の所為か、泥が体にはね、進めば進むたび歩きにくくなった。
トシさんたちはもう高官と高杉が会う予定の場所に向かっている。俺が屯所から抜け出したことはきっと気づかないだろう。

風が当たる所為か涙が風に乗せて舞った。

ちりんちりん、と俺の頭の中か、懐の中か、鈴の音がどんどん大きくなる。

「――っかすぎ!」

約束の橋の上、あいつは煙管を傾けて紫煙を吐き出しながらそこに立っていた。

「よぉ。久しぶりだな。」
「よぉじゃねえよ!早く、」

早く?早くどうしろって?刀は懐に入っている。この距離だったら、殺せる。まだ引き返せる。

「―――何泣いてんだよ。」
「――泣いてねえよ、バカ!大っ嫌い!!」
「お前の大嫌いは聞き飽きたな。」

呆れたように笑う高杉の腕をつかむと高杉は小さくどういうつもりだと言った。こいつもどうやら俺が自分を殺しにきたもんだと思ったらしい。そりゃどうだ。俺は真選組だもの。

「ここにあの爺は来ねえよ。来るのは刀持った連中だ。」
「やっぱり裏切ったか。」

どっちが?幕府の爺?それとも俺のこと?

「どっちも。で?お前はどうすんだよ。」
「……逃げるよ。どうせばれるし。」
「まだ引き返せるぜ?」
「そういうこと言うなよ……」

ちりんちりん、と風に揺られて鈴が鳴る。高杉からも同じ音がした。

「無理だよ。俺はお前を裏切れないもん。」
『俺はお前は裏切れないなあ。』

ずっと昔に交わした言葉と同じ。さして面白くもない毒を吐けば高杉は俺の腕をつかんでぐい、と引き寄せた。

「――なにさ。」
「必ず。」
「え?」
「また会いに行く。」
「……」
「絶対。」
「……わかったから行けよ。」

とん、と体を押せば高杉の体は簡単に離れてこちらに背中を向けた。ちりん、ちりん、と鈴が鳴り、俺の手に残るのは、さっきまであいつが口にしていた煙管。それをオレも口を近づけ紫煙を吐くと甘苦い香りが広がった。

懐に手を入れちりん、と一つ音を落としてみる。
それは記憶の音と、とてもとても、よく似ていた。






siori