きみを苦しめる
 


吉継くんはまだ起きない。帰ってきてからずぅっと寝たまんま。傷はちゃんと治療させたし、栄養剤も打ってるし。連れてきてからもう一週間なのに、そろそろ起きてもいいころなんじゃないのかなぁ。

吉継君を連れて帰ってきた日、正ちゃんには顔を真っ青にしてこっぴどく怒られた。敵のボスを連れて帰ってくるなんて何たることか、しかもボンゴレリングも持ってないのに、ってね。
でも正ちゃんの心配事はそれじゃない。予測不可能なことが起こるのが大嫌いな正ちゃんのことだから、予定調和を崩されてこれからどうしようってことなんだろう。吉継君はボンゴレにとってだぁいじな戦力だから。

ボンゴレ側には吉継君を連れてきたことなんてとっくにばれていて、交渉の場を求められているけれど、そんなのに応じる気はない。


あの日、吉継君には選択肢があった。


彼は周りからはそう思われていないようだが、とても繊細で、そしてとても強い。あのひ、彼は自害するという選択肢があった。


でも、しなかった。

多分、うぬぼれてるわけじゃないけれど、あそこにいたのが僕じゃなくて別の男だったら自害した。まず間違いなくね。

だけどしなかったのは、彼がボンゴレのために動くのをやめることを選択し、僕とともに来ることを選択したからだ。

多分、無意識だろうけど。



「だから、僕に向けてるその拳銃、下してくれないかな。」
「お前を殺せば全てが終わる。」
「そりゃぁそうさ、だって僕がボスなんだもん。」
「だから―――、」




「本当にいいのかな?」




「―――、」
「僕を殺して本当にいいの?」
「何を――ッ」
「僕を殺したらどうなるかな?」
「そんなの、」
「そう、決まってる。君は僕を殺して戦いを終わらせボンゴレに帰り、今までと変わらない生活を送り始める。そう、今までと変わらない、ね。」
「それが、それがなんだっていうんだよ!!」



「いいの?」


「……ッ、――、」
「銃から手を放して。」


がちゃ、と大きな金属音がして、振り向けば彼はしゃがみこんで俯きかたを震わせ泣いて泣いているようだった。


彼と顔がよく似たあの青年に優越感を感じた。
彼は、僕を選んでくれた。





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