いたい、いたい
 


珍しくへまをしたと思った。簡単な暗殺の仕事だったのに、相手のほうが一枚上手で、やつの頭に拳銃を突きつけた瞬間大勢の黒服の男に囲まれた。ポーカーフェイスを保とうと苦し紛れに笑っても状況は変わらない。ボンゴレリングとは違う大空のリングで開匣したけれど、さすが、ぽっくすも普及してきただけあって、数の多い相手と戦うのは些か骨が折れた。


『―――、――つぐ、』

壊された無線機から途切れ途切れに弟の声が聞こえる。あぁ、弟は大丈夫だろうか。あいつは俺のターゲットの部下と交渉の予定があった。この分だと、あっちにも、敵が。



ざぁあ、ざぁあ。


雨の音がひときわ大きく聞こえる。あぁ、天に近づいているんだろうか。強くなってきた雨が傷口をえぐっていたい。この路地裏で倒れていれば、だれか拾ってくれるだろうか。


いや、そんなわけない。
こんなイタリア南部の路地裏で血を流して倒れたって、きっと誰だって肢体だと思うに違いない。俺でもそう思うしね。そんなやつに手を差し伸べるのなんて俺の弟くらいのお人よし。


「―――?」


不意に、雨が途切れた。止んだのか、いやに突然だなと顔をあげるとそこに立っていたのは、悲しそうな、いや苦しそうな、それでいて嬉しそうに弾んだ笑顔の、白い髪、そして白い服の男。

そしてその男に俺は見覚えしかなかった。


「―――殺すなら早くしろ。」
「ふふ、そうだね。もうずいぶん苦しそうだし、ボンゴレの医療法をもってしてもこの傷じゃあまず助からない。あ、そうそう。弟君なら無事だよ。守護者総動員で援護に行ったそうだから。」


雨の音が聞こえる。傷をえぐる雨は俺の体にはもう奴の傘で当たらないはずなのに、どうしてだろう、体じゃなくて、どっかほかのところが痛い。


「あれ?そういえば弟君は守護者総動員で助けたのに、なぁんで君はこんなところで死んでるんだろうね?」
「――、」
「あぁ、信頼されてるのかな?」



ちがう、ちがうちがう!
こんな男の悪魔のささやきに耳を貸すな!
この男が今までいったい何をしてきたのか、俺たちがこの男のせいでどんな目に合わされてきたか、忘れたわけじゃないだろう?



「―――何、の真似、だ」
「ん、偽善行為。またの名を僕へのプレゼントを拾ったのさ♪」
「――、」



雨じゃない。頬に伝うこの液体は、哀の涙か、歓の涙か。











「君が、欲しくなっちゃった。」



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