君しかいらない
白蘭に連れられて日本に戻ることになった。せっかくイタリアに来たのにとごねたい気持ちもあったが、なにか大事な用があるというので仕方がない。手を引かれて飛行機に乗るとなんとファーストクラスだった。さすが金持ち。
再会してから一言も発さなかった白蘭は席に座ってからやっと言葉を発した。
一つ、俺の唇にキスを落としてからだけれど。
「、びゃく、らんさ、ん」
「何、さんって」
「いや、だって……」
よく考えると俺と白蘭は、これが再会っていうか初対面なことに気が付いた。しかもみるからに年上?(先入観だろうか)に見えるし、よくよく理性を取り戻すと為語を使うのも憚られた。
「嫌だなぁ、それ。」
「い、やって言われても、その、」
「……吉継?」
肩が震えた。俺の名前を呼び捨てにするとき、白蘭は確実に怒り始めている証拠だ。俺は未来の記憶を完全に取り戻したわけじゃないからまだ白蘭が怒ってどうなるかはわからないけれど、でもそれでも白蘭を怒らせたくないという気持ちはもちろんあった。
「ま、いいか。」
「う、ん。」
「あとさ、最初に言っとくけど、」
もう一度俺の頬に手を当て顔を近づけて白蘭は笑う。でも、目には確かに冷たさがあった。
「日本に帰っても、ボンゴレに帰っちゃだめだよ?」
「そんなつもりない!!」
思わず大声が出た。周りの客が何事かとこちらを見て、白蘭がしー、と言って人差し指を俺の唇に当てた。
「ごめん、ごめん。吉継君っていっつもふらふらしてるから。」
「ふらふら、って。」
「未来でもそうだったから、さ。」
「………」
思わず押し黙った。未来で俺は中途半端な気持ちでミルフィオーレにいたかもしれない。でも、それは未来の俺だ。そして、同時にそれは白蘭が愛したのが未来の俺だということも意味している。
「なあに、何か不安そうな顔だね。」
「べ、つに。」
「……言ってくれなきゃわからないよ?」
「………」
白蘭は、今の俺を好いてくれるんだろうか。
「好きだよ。」
「え?」
「考えてることなんてわかるよ。」
「………」
「好きだよ。」
「え、」
「好きだよ。僕は、吉継くんが、好きだ。」
「え、」
「す、」
「分かった!!分かったから!」
顔が、熱い。
「あのさ、十年後でも、十年前でも、僕は吉継君が好きなんだけど。」
「う、ん。」
「信じてよ。僕は君以外愛せないんだからさ。」
「よ、よくそんな恥ずかしいこと言え、るな」
「あっれ、君は違うの?」
「い、いや………」
どうなのどうなの、とかまってくる奴の顔が近づいたとき、機械音が大きく難って飛行機の期待が持ち上がった。自分の耳にも届くか届かないかくらいの大きさで、小さくつぶやいた言葉は、奴には届いただろうか。
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