やっと叶ったね
イタリアについた。戸籍は無事破棄されたらしく、偽のパスポートで乗ることになったが、たいして大きな事故もなく目的のローマに着くことができた。少ない荷物を肩にしょってタクシーを捕まえた。
「日本語は?」
「しゃべれるよ。どこ行くんだい?」
「この辺に海はある?あんまり利用者がいない海。」
「うーん。○○海岸はどうだい?利用者はいないが綺麗だよ。」
「じゃあ、そこに行って。」
イタリアに来るのは久しぶりだ。まだ幼いころに父さんに連れられてボンゴレの九代目に会いに来た。この風情ある街並みを見るのもそれ以来だった。
「お客さん、旅行かい?」
「いや、人探しさ。」
「それは大変そうだ。」
ここは人口だけは多いから。そういって運転手は笑った。戸籍もないストリートチルドレンも多いということだろう。
「今から行く海にヒントでも?」
「あぁ。思い出さ。」
それきり運転手は黙りきった。
黙って外を見つめ続けるとだんだんと綺麗な家が少なくなり次第に荒れた風景が目立つようになった。
そこら中で殴りあう青年が目立った。どちらも体に厳つい刺青が入っている。そしてその荒れた風景を通り過ぎるとだんだん家自体が減ってきた。
「もうすぐですよ、お客さん。」
「あぁ、ありがとう。」
そう声を掛けられて暫くして車が砂浜の一歩手前で穏やかに止まった。
「ありがと。」
お金を払って車から降りると潮風が強く髪が眼にかかる。手繰り寄せて耳にかけ一歩砂浜に出ると不思議と懐かしさがこみ上げてきた。
十年後、俺はこの広い砂浜に建った白い家であの男と二人で暮らし、そして一人になった。
"好きだよ、吉継君。君が好きだ。"
綱吉ではなく、俺を、必要としてくれた。
初めての人だった。
でもその人は本当に悪い人で、綱吉たちを殺そうとして、たくさん人を殺して、世界さえもつぶして、ある意味狂った人間だった。
それでもその人は俺を求めてくれた最初で、多分最後の人で、愛さずには、いられなかった。
でもその人は弟に殺されて、でも弟に非はなくて、恨みきれなくて、でもあの人を忘れることもできなかった。
だから俺は家族を捨てて、あの人を探しに来た。
「、白、蘭」
会えるんだろうか。本当に、あの人に会うことはできるんだろうか。
あきらめたら負けだというけれど、あきらめたわけでは決してないけれど、この広い海を見ていると、世界はこれだけ広いんだと思えて、不安になるのは当たり前だ。
"恭弥って、呼ぶの、あの子だけにしたいんだ。"
仲が良かった友達に名前で呼ぶのを拒まれた。どうやら弟に惚れたらしい。
"吉継さん、初めまして!綱吉さんの未来の妻です!"
初恋の相手は弟に一目ぼれした。
"ツナくんってなんか頼もしくなったね。"
次に恋した相手ももう心はツナのものだった。
"ツナは天才型、お前は努力型だな。"
どんなに成績が良くても戦闘能力が高くても、俺に、才能はなかった。
【ねえ、吉継クン、】【君は、思わないのかい?】【綱吉君ばかり、】【どうしてって。】【君は頑張ってるのに。】【戦闘能力も】【勉強も】【炎の扱い方も】【超直感だって。】【なのに、】【ボスは綱吉君だ。】【ねえ、】【吉継クン。】
でも、あの人は俺を、求めてくれた。
そんな人を、愛さずにはいられなかった。
「びゃ、くら、ん」
「なぁに泣いてんの。」
「え?」
「会いたかったよ、ずーっと」
ぎゅ。
暖かい。
確かにそこにいる。
白いふわふわした布。あいつが好きだったマシュマロにそっくりだ。
「白蘭。」
「うん。ここにいるよ。」
「白蘭、白蘭。」
「うん。」
「………ッ、会いたかった、」
やっと、会えた。
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