大切で、大切で
「……そう。」
綱吉君は死んだよ。そう伝えると、吉継くんはこちらが驚くほど表情を固めたまま変えなかった。え、一言?と思わずこっちが驚くと、いずれはこうなることだろう、とだけ言って身をひるがえして寝室に戻ってしまった。彼の方がよっぽど僕より肝が据わっているらしい。
「……白蘭」
寝室に言ってベッドにもぐってしまったのか小さく僕の名前を呼ぶ声がする。本当に聞こえるか聞こえないかのような声。最近吉継君はテストのようにこういうことをする。僕に自分の声が聞こえているかどうか。きちんと、応えてくれるかどうか。
「なあに。」
寝室のベッドわきに腰かけて体をひねって彼を見れば壁側を向いたまま布団にくるまって微動だにしない。なんで僕を呼んだんだか。
「ねえ。」
もう一度声を掛けると、今度は小さく、そこにいて、と答えが返ってくる。わかったよ、と小さく返して天井を見上げると、そこはどこもかしこも真っ白だった。
今頃吉継君は何を考えているんだろう。僕のことじゃないのは分かりきっていることだけれど、そして、いくら死んだ弟のことを考えて悲しく思っても、多分吉継くんは僕を恨まない。
ねえ、吉継くん。
僕は酷い人間なんだよ。
君が少しでも大切に思う人の命を奪うことでしか、君の愛に確信が持てない人間なんだ。
君がいくら僕が一番だと言ってくれても、僕はそれを信じることができないんだよ。だから僕は綱吉君を殺したし、これから君のかつての仲間を殺しに行くんだ。
いい加減気づいてよ、
僕は酷い人間なんだよ。
君が僕に愛していると言って笑うたびに、
僕は罪悪感で死にたくなる。
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