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「……今日もあいつは来ないな…」
「あいつ?」
人が減ってきたところで椅子に座ってひと段落しているとお父さん唐突にため息と一緒に吐き出した言葉。そのあいつとやらに私は心当たりがなかった。
「ほら、お前もよく昔遊んでただろ。お前の兄。」
「……え?」
あ、兄?まったく覚えがない。私にお兄ちゃんなんていた覚えがない。その上よく遊んでもらってたなんて。
「まぁ、正確には従弟だけど。お前の伯父さんが死んでその息子を一回うちで引き取ったんだよ。すぐに養子に出す結果になったけど。」
「え、じゃあ、一緒に暮らしてた?」
その問いに答えずにお父さんはまた増え始めたお客さんの相手をし始めてしまった。
『迎えに来るから。』
ああ、覚えがあると言えばある。迎えに来るといって来てくれなかったあの私よりも少し年上と思われる少年。そんな関係だったのかと妙に納得してしまう。
「…じゃあ、あの写真の子…。」
『いつか、絶対会える。俺には分かる。』
「ホント…そうかもね、」
あの日、いつもは冷静な斎藤さんがやけにあつくなっていったことを思い出して、どうしてだろう。あの綺麗な藍色を思い出す度に悲しくなっていたのに、今はとつてもそれが愉快に思えてならないよ。
あの日の約束を、あこにしたことはこれまで一度もないけれど、今はそれに縋りついても良いかなって思ってる。
不思議だね。