椿さん
腕が切られた。ものすごい量の血が流れ出てる。意識はもうろうとした。だが足だけは止められない。絶対に。絶対に。
「………ッ」
足がでこぼこした地面に躓きズサァ、と、派手に転んだ。元々男とそれほど差があったわけではない。すぐに追い付かれ、振り上げられる刀に目をつむった。
が。
からんからん。
頭のすぐ横になにかが落ちる音。目を開ければ血に塗れた刀がおちていた。そしてすぐあとに、叫び声。そして、どこかで聞いた声。
「おまえって、つくづく不運なんだなあ。」
顔をあげれば赤い髪。見たくもない大きな槍。新撰組の、原田左之助。
肩を貸されぐったりと立ち上がり、目の前にあるさっきまで俺が必死に逃げてきた男が絶命していた。そして、すぐに青ざめる。
「一人……」
「あ?あぁあと一人は沖田がおってるけど」
「あと、一人は、」
二人に、二人を。
幸せになるはずだった二人の笑顔が浮かぶ。そして最後に見た徳兵衛の力強いうなずきと、椿さんの、泣きそうな笑顔。この世界に来てからの、たった二人のともだち。
「い、かなきゃ。」
「あぁ?おまえまじで死ぬぞ。」
「いい、いい。」
二人が死んでしまうなら、願いも叶わずに死んでしまうのなら、俺の命なんて、いらない。
本気で、そう思った。