椿の恋
うたたねをしていた俺は徳兵衛に叩き起こされた。時間かとおもったがどうやらそういうことではないらしい。焦りかたが尋常ではない。椿さんが窓を開けていた。
「なに!?」
「店が裏切った!」
どうやら今いる店がつばきさんのみせに情報を流したらしい。だが向こうが外にいないところを見ると、まだ知ったばかりと言うところか。今なら外に出ても捕まらないかもしれないが、どちらにせよ危ない橋だ。
「今、降りるか?」
店のものたちのざわめきはきこえるが、外にほとんど人はいない。大通りと反対側ににげれば、逃げ切れる可能性はあった。徳兵衛の決断ははやく、すぐに頷いて椿さんをしたに下ろした。
続いて徳兵衛。最後に俺が降りる。
大通りにせを向けて、反対側に、細い小道を走る、走る。全員、草履は脱げて裸足になってしまっていた。捕まるわけにはいかなかった。
幸せになりたい二人。俺は幸せになってほしい。捕まるわけにはいかなかった。
「はっ、」
息が切れ、腹がいたくなったところで、人通りのないが、少し広い道に出た。椿さんに顔を隠させるため布を被せた。
「追っては、来てないか。」
「念のため、もう一本通りをずらそう。」
徳兵衛の考えでまた小走りで進む。はだし出歩くにも限界がある。俺らはともかく、椿さんの足は傷だらけだった。
(はぁっ……あと少し……!)
角を曲がればもう逃げ切ったも同然だろう。そう思ってまた歯をくいしばった矢先。
「なぁっ……!」
目の前に立ちはだかるのは、アサギ色の着物を来た男。