椿のはな
最後に椿さんの店に会いに行ってから十日が経った。三日に一度は会いに行っていた俺が十日もあいに行かないから大八さんは贅沢物だと言ったが、それにはわけがあったのだ。
十日前。
椿さんに最後に会ったあの日、彼女は俺の前で初めてないた。
今でも椿さんに涙ながらに頼まれたことをぼんやりと考えている。頼まれたこととは椿さんをあの郭から連れ出すことだ。もちろん俺と一緒になるとかそういうことじゃない。
椿さんには好きな人がいた。
郭に売られる前、幼いときに将来を約束した相手らしい。そう、その相手が、
「頼むっあき!」
こいつ、徳兵衛だから、俺もどうすべきか計りかねているのだ。徳兵衛はこっそりと以前から郭に通っていたらしい。そしてたまに椿さんとあい、そして、数ヵ月前、俺にあの無料券のような布を渡すようにと、指示したらしかった。
さいしょから俺は当て馬かーい
「協力はするけどさぁ……」
郭わ警備が厳しい。若衆によって何十にも警護されている。足抜けなんてしようものなら遊女は折檻、相手は殺しまではしないものの、二度と会うことは叶わないだろう。
そう。それほどまでに足抜けは危険なのだ。
「ほ、ほんとか!?」
「うん、するけど、計画は?」
俺ばかだからそんなの練れないよ、というとそれは重々承知だと、元気のよくなった声が返ってきた。どういう意味だ。