どうにでもなれ。
無言だ。すこぶる無言。
夜道を沖田さんと歩きながら俺はつらすぎる気まずすぎるの沈黙にひたすら耐えていた。親しくない人との沈黙ほど辛いものはない。からからと下駄が鳴る。妙に明るい月がKYだった。
「君さ、」
「はい!?」
「なんか頭残念そうだよね。」
「はぁい!?」
「ほんとに一くんの従兄弟なの?」
「はぁ、そうですけど。」
馬鹿とは言われ慣れているけれど初対面でいきなりそんなことを言われたのは初めてだ。さすがにいらっとくる。それに最近はそこまで馬鹿とは言われないようになってきた……と思う。のに。
「その草履の持ち主さ、」
「あやめさんですか?」
「そうそう。よっぽど男を見る目ないんだね。」
「(・ω・)?」
聞かなかったふりをした。
俺は大人になった。
「よっぽど見る目ないんだね。」
「(◎益◎)?」
聞かないふりをした。
暫くの無言の後、あやめさんの屋敷に着いた。門の脇の警備の物がいる窓をトントンとたたくと中へどうぞと言って中へ通された。あやめさんが怖い笑みを浮かべて立っていた。
「ずいぶん遅かったですのね。」
「え、あぁ、はい、すみません。いろいろと用事を足してて」
「わたくしよりも大事な用事ですの?」
「いやっ、決してそういうことじゃなくてですね、あの、不可抗力で遅れてしまったというか、」
「……そう。ならいいわ。それより、太夫からもらったというのは本当ですの?」
「だっ、誰から聞いたんですか!」
「徳兵衛さんよ。」
徳兵衛のやろう!!隣の家に住む若い男を思い出してこぶしを握る。なだめるように笑顔を浮かべて、でも俺は行く気がないですから、というとやっと少しだけ笑顔になった。お得意様を失うわけにはいかない。
「じゃあ、また明後日。お店にうかがうわ。」
「は、はいぃ……。」
門を出ると沖田さんが相変わらずにこにこ笑いながら立っていた。腰に据えた刀にどうしても目が行ってしまって疲れが二倍。女って勝手ですねえ、というと君だからじゃないのと言って笑われた。あぁ、俺って女の扱い方が下手なのか。
ま、いっか。俺女だし。