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店に島原の太夫が来た。
普段若衆が飴が好きだという太夫のために店に来ることはあったが、太夫本人が店に来たのは初めてだった。店の周りには何人も野次馬がいた。
「ほらっ、あんた接客しな!」
「お、俺!?」
背中を女将に突き出され俺は無様に太夫、椿の前に立たされていた。
「えーっと、今日はどんなご用件で、」
「ふふ、飴を買いに。砂糖細工もほしいわね。」
「あー、えっと、どんなものがお好みですか?綺麗なものもありますし。」
「じゃあ、あなたのおすすめは?」
微笑む椿さんは今まで見たことないくらいに美しい。からんころんと草履が鳴り俺が示した方向へ彼女が優雅に歩んだ。
「じゃあ、これは?椿の花の飴。」
「あら、生意気に気障じゃない?でも素敵だわ。」
これちょうだいなと言って俺の手に軽く触れる彼女。白い細い手はどこか女を感じさせられる。
「じゃあ、またいずれ。」
ぎゅ、と別れ際俺の手を握った彼女。そのぬくもりが離れて行ったと同時に手を開けばそこには、椿と刺繍された小さな布。
「だ、大八さんんんん!!これ、これ!!貰った!!」
「太夫にか!?いよっしゃ、いよいよ筆おろしだ!」
あまりにあせって布を大八さんに差し出すとにやけた笑みで頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。
この赤い小さな布にはちゃんと意味がある。
椿さんが働くあの遊郭特有の制度。
太夫から遊女の名前が刺しゅうされたその布を直接渡されたそのものは彼女の無償接待の権利を得るのだ。
そして今俺が手にしているのは江戸中の男の憧れ。太夫、椿のその権利だった。
「どうしようどうしよう!俺遊郭なんていけないよ!」
「知ってるさ。だったら俺にそれを渡すんだな。」
「それは嫌!!」
布を巾着に入れ大切に懐にしまう。
というか、俺男じゃないんだけど、遊郭に言ったら絶対セックスしなきゃいけないのかな。でも、あと一回でいいから椿さんに会いたい。