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太夫になっても前と生活はあまり変わりはしなかった。
あたくしは美しかったし、田舎者であるのを隠していたから、あたくしを見受けしようとしてくれる男はたくさんいた。愛してくれる男もたくさんいた。
でも、それに応じたことはなかった。
あたくしには心に決めた男がいるからだった。
「最近、よく来ますのね」
「……迷惑か?」
「そんなわけありませんわ。お客様ですもの。」
土方様は相変わらずいつも月を見ている。あの簪はあの小さな少女の髪にとまっていた。あの少女は純真で、土方様がみているあの月の光のようだった。
「お前はいつからここにいる?」
月を見たまま土方様が言った。
「過去を探るのは遊女にはいけませんわ。」
「そうか。」
土方様は美しかった。黒髪に切れ長の瞳。燦然と光り輝く太陽とは違い、静かに光るあたくしの愛した月の光。
あたくしも美しかった。自分でもそう思っていた。
けれど、あの月の光のように、凛としたその光。
それを持つことは二度と、できやしないだろう。