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今日は俺が教鞭をとる学校の入学式だった。新入生を迎えたが、あいにく俺は今年は三年生の担当のため入学式は早々関係はなかった。下から巻き上げるような風が吹く。その風に合わせて校庭に植えてある八重桜が舞った。
桜が咲くと思いだす、昔殺した女。
何百年も前のことを、俺がなぜ覚えているか分からなかったが、昔の記憶の中でも特に鮮明に残っていたのは、確かに美しかった艶やかな女だった。
もう一度、さっきよりも強く風が吹き、少し前を歩いていた女子生徒が少し声を上げて乱れた髪をおさえた。
滑らかな髪から髪留めが外れ少し後ろに落ちた。
拾い上げると銀色の細工で、椿をかたどっていた。
「土方先生、ありがとうございます。」
こちらを向いて手を差し出した彼女の肌は、驚くほど白く、そして唇は驚くほど赤かった。
「――じゃあ、さようなら。」
去っていく彼女の後姿と、桜の花が重なった。
「―――、おい!」
もう一度やり直せるなら、彼女とともに歩みたいと思ったのは、確かに自分だ。