00:START! ACE
お前の欲しいものが現れる匣だよ、
何気なく手にしたその匣は手の中に納まる物だった。
立ち寄った島での蚤の市で老婆が店主と見られるテントで、アクセサリー類の横に無造作に置かれていたそれ。
老婆は静かに哂っていた。
どういう意味か問うと、言葉のまんまさ、と言い返されて次に
その匣は持ち主を選ぶ。良かったね、大事にお使い。
そこまで言われたなら興味が沸いて買う事にしたのに、金を払おうとすると要らないよ、と言われて驚いて何故か聞くと
御代の代わりに楽しませてもらうから安心おし、
そう呟いてフォッフォッフォッ、と皺くちゃに顔を歪めて哂っていた。
気味が悪ぃと思いつつ、この匣から目を離せなくなり結局貰って帰ったのだった。
ベッドで寝転がりながら匣を弄る。
なーんか惹かれてしまったんだよなあ…
こんな古ぼけた匣なのにおっかしーの。
匣をポンと左手に投げてお手玉のように両手の間を行き来させた。
軽くて木で出来ていて中には何も入って無かった。
何度確かめてもからくりも何も無い、極普通の匣だ。
俺の欲しいものがどうやって現れるんだ?
腹が減った時にわんさか飯が出てくるとか? なら最高なんだがなあ。違いそうだし。
腹が減った時に開けてみたけど、期待した食べ物の山なんて出やしなかった。
ま、いっか。
そう思って寝る前に机に置いて寝て。
朝、起きてからまた蓋を開ける。
何も変わってる訳が――
蓋を閉じる。…もう一度ゆっくりと開ける。
人 形 ?
もう一度蓋を閉じる。
まだ寝惚けてるのか? 目を擦って瞬きも繰り返す。よし、大丈夫だ。寝惚けちゃねえ。
そっと蓋をまた開けた。
そこには三角座りをした人形が存在していた。
寝る前まで何も入ってなかったよな? 誰か俺が寝てる間に仕込んだのか?
いやこの匣の事って誰にも言ってねえ。
? するとこれが俺の欲しい… え…
ちょっと老婆が言ってた台詞を思い出して沈む。
どういう事だ?
寝てる間に人形欲しいって夢でも見たっけ? いやそんな筈ねえんだが…
匣の中の人形を凝視する。
人形は目を閉じていたが、肌感や髪なんて本物っぽくてかなりリアルに作られていた。
最近の人形ってすげえな。こんなに人間っぽいのか。
人差し指で人形の頬を突いてみた。
温かい?
「ん…」
しぱしぱと目を瞬かせ、人形が目を開けて。
首を見上げて俺と目が合った。
「巨人!!」
「違う。」
いや何俺冷静にツッコんでんの?! 人形が喋って動いてるのに!!
すっげええええええ最近の技術ってすげえんだな!!!
「うはーっ! 巨人が喋った! でっかいなー。やだ、私の事食べないでね。不味いから!」
「食べねえよ! ってか俺は巨人じゃねえ! お前が小せえんだ!!」
感心せずに慌てて否定する。まあ人形から見たら俺は巨人なんだろうが。
「またまたー。んな訳ないじゃん。これでも身長高い方だったんだから。そりゃ巨人に比べたら小さいに決まってるけど。」
人形が動いて匣からひょい、と身を乗り出した。
「すごいねー。巨人の世界に来たみたい。ガリバー旅行記の小人視線? やだ、楽しすぎる!!」
ニッコニッコと笑い、楽しそうにキョロキョロと周りを眺めるその様子は、まるでネズミのようで楽しい。
ああ、俺ペット欲しかったんだっけ? でもこれって何か違う…
「ちょっと巨人のにーさん、助けてくれる? ここから出して?」
「おう。巨人じゃねーけどな。」
人形の望みを叶えてやろうと胴体を右手で包んだら、パチン、と親指を叩かれた。
「ちょっと! 気をつけてよ!」
「? なんだ?」
人形から叩かれてもちっとも痛くないけど、俺何かした?と思って首を傾げると。
「そんなに強く掴むと痛いんだから!」
頬を赤く染めて騒いでる。
えーと…もしかして、胸?
すげえな、最近の人形は痛みを感じたり恥じらい機能まであって感情豊かなんだな。
「すまねえ。ってかお前、人形なのにそんな痛みとか感じんの?」
なんか余りにも人形が普通に喋ってるから、つられて俺も普通に会話してる。
あれ? 俺こんな冷静キャラだっけ?
「何その人形って。失礼な。人間だよ。巨人のにーちゃん。」
「だから俺も巨人じゃねーよ。ってか、お前人形じゃないなら小人か。すげえな、初めて見たぞ。ここまで小さい小人族。」
また怒られないようにそっと小人を掴み、掌に乗せると小人が仁王立ちで叫んだ。
「小人じゃないよ! にーちゃんから見たら小人だろうけどさ。私のいる世界では女子で平均より上の身長なんだから!」
小人族の平均身長なあ… そりゃまた可愛らしい数字なんだろうな。
「平均身長って20cmとかか?」
「違う!! 何その人形サイズ! 私、身長163cmだけど?」
え?
「何言ってんの、お前。今どう見てもお前20cmちょい位しかねえけど?」
「嘘。きっとcmはcmでも違うcmで、ここのcmとは大きさが違うんだよ!」
「訳解らん事言うな。ミリ、センチ、メートル、のcmなら同じだろ? んで俺は185cmな。
お前が本当に163cmなら俺のこの辺までの身長になるが?」
小人が乗ってる反対側の手で、顔の横に"この辺"の位置を示してやる。
黙ってそれを見ていた小人が無表情になり。
首を傾げ眉間に皺を寄せて口元に手をやって何か考え始めたようだ。
その内、両手で頬を思いっきり抓て、ひたい…とかし始めた。
こいつ面白えなあ。
見てて飽きない。
「…縮んじゃった…? なんで? ここ何処? 巨人は誰? 私どうしたの?」
俺を見ながら困惑した目で一気に捲くし立てた小人。
「さあなあ。答えてやれるのはここは俺の部屋で、俺はエースって事だけだな。」
「俺の部屋って言われても解らないから、場所を教えてくれる?」
「そうだな。悪ぃ。ここはグランドラインって海で、船の中の俺の部屋だ。」
呆然とした目で俺を見上げてる小人が、へにゃへにゃと俺の手の上で座り込んだ。
「知らない… 何処の海よそれ…」
未だ混乱してる小人に声を掛けてやる。
「お前の名前は?」
「名前? ×××。あ、挨拶してなかったね。こんにちは。」
「こんにちは、×××。」
きちんとお辞儀をする×××。やっぱ面白えなあ。
ネズミってかリスみてえ。
「取り敢えず飯でも食べに行かね?」
そう言うと同時に盛大に俺の腹の虫が鳴って、その音にビビった×××が、ぎゃーっ!何ー?!、と
俺の指にしがみついたのを見て激しく悶えそうになった。
これが萌えか!!
小動物を見てたまらん、と言う思いと同じものに駆られ、ペットが欲しかったかかどうかは解らんけど
あの老婆面白いものくれたなあ、と感謝して笑いながら×××を食堂に連れて行く事にした。
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