白い王冠。裸の王様。
後編。主人公視点。長い。
「×××、まだ眠いか?」
んー…
「朝飯終わっちまうぞ。」
重い瞼を上げて目を瞬かせる。
「エース… おは、…、」
「具合悪いとかなら寝とくか?」
「大丈夫、へーき。」
眠い目を無理矢理抉じ開けると、エースが頬にキスしてくれた。
「珍しいな、×××が遅いなんて。大体いつも俺の方が遅いのに。」
「昨夜何か寝付けなくてねー… 夜更かししちゃった。」
優しく顔にかかった髪の毛を後ろに撫でてくれるエースは、ベッドに腰かけて私を見下ろしていた。
「眠いならまだ寝てていいぞ? その分俺が飯食ってやる。」
プッ、と噴き出した。
「エース、そういう時は”お前の分は取っておいてやる”じゃないの?」
笑いながらそう言うと、
「残したら新鮮じゃねえし、もったいねーじゃねーか! だから俺が×××の分も食って、起きた時にサッチに何か作らせるからいいんだ。」
「サッチに作らせる前提って。もう、何が勿体無いのよ、エース。」
クスクス笑うと、エースが覆い被さってきて。
唇を軽く重ねてキスをする。
「さ、準備したら飯行くぞ。」
「うん。ちょっと待って。」
やっと起き上がって、エースに部屋の外で待っててもらいながら急いで準備した。
食堂に行きエースが山盛りのご飯を消化しながら、その横でちまちまご飯を食べて。
視線を巡らしマルコを探したけど、何処にも見当たらなかった。
今日は遅いのかしら? 珍しい。
昨日あれからナースの皆と遊んだりしてマルコと顔を合わせる事が無かったから、ワザと避けた訳じゃないけど
距離を置いたのは確かでちょっと向こうの反応が気になる。
あの事は単なる男の出来心、で何も無かった事にした方がお互いいいだろうし、気まずくなる前に”いつも”に戻りたい。
寝る間際にそんな心配していたら目が冴えて眠いのに寝付けなくて、結局暫くベッドの上でゴロゴロしながら夜更かししたのだった。
まあ何とかなるか。
カフェオレを口に含み、隣が静かと思ったら案の定エースがまたご飯に突っ伏して寝てて。
喉にカフェオレを流し込み、ほう、と一口吐く。
起きたばっかで寝るなんてまったく。
すぐ目覚めるだろうから放置だ、放置。
「おはよう、×××。」
「イゾウ。おはよう。」
エスプレッソを手にしたイゾウが私の前の席に座った。
朝から麗しい… 私なんて軽く歯磨きと顔を洗っただけなのに、イゾウはちゃんと化粧を済ませていた。
「毎朝、マメだねえ。朝御飯の前にもう準備整えてるなんて偉いよ。」
私の感心した言葉に、ん?とイゾウが首を傾げ。
「私なんて朝イチはせいぜい化粧水つけた程度だもん。」
「別にいいんじゃないかい? ナチュラルなのは嫌いじゃないよ。」
……。簡単に女心を擽る台詞を吐けるイゾウ、イケメンすぎて朝から眩しい。
緩く微笑みながらさくっと女が言われて嬉しい言葉を言い、麗しげにエスプレッソを飲む姿なんて、どこかの歌舞伎俳優のCMみたいだ。
ダバダ〜と脳内でイントロが流れた。
目の前の美貌に少し照れ笑いすると、それより、と言葉を続けられ。
「昨日はどうだったかい?」
昨日?
「マルコは男だった?」
!! イゾウ、それ、
「それともヘタレだったかい?」
「やっぱりイゾウがあれ企んだの? ひっどい! あんな処に閉じ込められて苦しかったんだから。」
ニコリ、と笑われて
「俺は切っ掛けを与えただけだよ、×××。」
「何の切っ掛け? マルコと私を閉じ込めて――、……、」
言いながら言葉に詰まった。
実際に皆に教えられない”何か”があったから。
そんな私の反応に気付き、楽しそうに喜ぶイゾウ。
「奴も男だったんだねぇ。」
「私達別に何もないし。って言うか酷くない? 何であんな悪戯したの?」
「俺なりのお節介だよ。これでハッキリしたろ? お前さんを巡る男達。」
何そのお節介って。
少し膨れながらイゾウに言い返す。
「私を巡るって何? マルコがどうだって言うの?」
「それは俺からは言えない。でも、ま、これで少しは動くだろ。」
くすくすと楽しそうに笑われて。
何か面白くないからまだ頬を膨らませてたらそれを楽しげにつつかれて、いい玩具になってるだけだ。
「何か勝手な事言ってるけど私とマルコ、何もないし。何が動くのよ。」
「さあ、それはお楽しみ。…で、マルコは?」
「知らない。今朝はまだ見ないよ。」
私の頬をぷにぷにとまだ触ってるイゾウが周りに目をやり。
マルコの姿がないのを確認した後に、私に目線を戻し問うた。
「昨日奴に何かしたのか?」
「し て な い。何すんのよ私が! あっちが、……。」
「あっちが?」
がーっっ!! もう! 私の馬鹿!! 口が滑っちゃった!!
簡単な誘導尋問に引っかかった私を、イゾウが楽しそうに見つめて頬を撫でた。
「ほら。吐いちまいな。楽になるぞ。」
猫をあやすように顎下にまで手を延ばし、擽られる。
この手には乗らないんだから! 美形にあやされて簡単に靡く私じゃないんだからね!
とは思いつつ、うう、相談がてら言いたくなっちゃう…
「ぶっはあ!! あー寝てた。…イゾウ。何してんだ?」
いいタイミングにエースが起きて。
顔に朝ご飯をぐちゃぐちゃに付けながらイゾウを睨んだけど、エース、その顔じゃ全然かっこよくない。
「寝てる誰かさんの代わりに×××の相手をしてやってただけだよ。」
余裕の表情でイゾウも返事をするし。
ちっ、と悪態吐くエースを尻目に、じゃ、エースが起きたし俺は行くわ、と言ってイゾウが席を立った。
「×××。何か話したくなったらいつでもおいで。な?」
そう言いながら頬にキスされ、エースが怒鳴り返そうとしたのを彼の腕を掴んで抑える。
私が掴んでいる限りは発火しまい。
「…解った。ありがとう、イゾウ。」
私の返事を聞くまでもなく彼が食堂を去って行った。
「何だったんだ、あいつは。それに×××。なんでキスさせた。」
一難去ってまた一難って感じ。
「頬にキス位挨拶じゃん。それよりエース、これで顔拭きなよ。」
毎度ご飯に突っ伏すエース用に常備してるタオルを渡すと、不貞腐れながらも顔を拭いた。
「俺が寝てる隙に油断ならねえ。」
「そんな事言うなら食事中寝ないの。」
ぐっ、と言葉が詰まるエース。
まあエースも寝たくて寝てる訳でもないんだけどね。
「ほら。まだここに付いてるよ。」
彼の唇近くに付いてるソースを舌で舐め取ってやり、太腿をポンポンと叩き。
「ご飯、食べ終わっちゃお?」
子供に諭すように優しく言うと気を取り直して、うん、そだな、と素直に食べ始めた。
その後は怒りより食欲に目が向いて、一気にお皿を平らげて。
満足と同時に気分も切り替わったようだ。
エースがコーヒーを飲み終わり、私もカフェオレを全部飲み干し。
朝食時間も終りに近付き、席を立って食堂を出ようとするとサッチに呼び止められた。
「お前等、マルコ知らね?」
「見てねえな。」
「居なかったよ。」
やっぱそうかー、とサッチが腑に落ちない顔をし。
「なあ、あいつの様子見て来んね? 万が一具合悪いのならオヤジに報告で。
どうせ部屋で深酒かまして爆睡ってパターンだろうけど、連絡なしで朝出てこないの珍しいからな。」
「解った。起こしてくる。」
エースが任せろ、と引き受けた。
「じゃ、宜しくー。」
サッチに見送られながら廊下を歩き、私もついでに一緒に行く事にした。
もしかして昨日の件で私と顔合わせ辛くて出てこなかった?…な訳ないよねー。
そんなの中学生じゃあるまいし。
「マルコ、風邪かな?」
一応心配してみた。
「いや、サッチの言う通りに酒じゃね?」
「そうだねえ。昨日普通にしてたし。」
「そうそう、不死鳥が風邪引くのもおかしいじゃん?」
「んー、確かに。」
くすくすとマルコをネタにしながら彼の部屋に行き。
ドアをコンコン、とノックを数回繰り返すが無反応だった。
「マルコー! 入るぞー!!」
エースが何度か呼んだが反応無いし、でドアを開ける。
その途端に酒の臭いが少し鼻についた。
「酒でビンゴだな。」
「そだね。」
電気を付けると、マルコはベッドの上でサッチの予想通りに爆睡していた。
身体を壁側に向け横向きにして寝ている。
「おい、マルコ。起きろ。朝だぞ。」
しーん。
私も言葉をかける。
「マルコー起きてー! 朝だよー!!」
反応なし。
「マルコ。」
エースがマルコの肩を揺らしたその時。
マルコが少し身動ぎして身体をこっち側に向け、起きた?と思った瞬間に、エースの手を引っ張って抱え込んだ。
「おぅ?!」
ぐるりと両手でホールド。
「おいマルコ! 起きろこのボケ!!!」
エースが暴れてるのを余所に、マルコがエースの首根元に顔を埋め。
「!!!!! っマルコおおおおお!!!!」
ガッ!とエースの膝がマルコのお腹に入り。
ぐっ、と呻いてマルコの動きが止まった。
慌ててエースがマルコを引っぺ返して、マルコにもう1発グーパン入れようとしたら、マルコがパシッとそれを手で阻止し。
「…何すんだよい。」
やっと起きた。
「何すんだは俺の台詞だマルコ!! てめえ何しやがる!! 気持ち悪ぃ!!!」
「え?」
「寝惚けてるにしても信じらんねえ!!」
呆然としてるマルコと怒りまくってるエース。
何だ何なのだ、これは。
目の前で起きたドラマに私も呆然と固まってたら、マルコが私の存在に気付き。
信じられない、とでも言いたそうな表情をしていた。
…取り敢えずボケてみた。
「マルコ、もしかして溜まってんの?」
「ちげえよい!!」
「良かったらエース貸す「「阿呆かああ!!!」」…はい。」
エースとハモって怒られた。
「ったく。寝惚けてるにしても男の俺を襲ってどーすんだ。」
「………。」
マルコが固まっている。
彼等のやりとりに思わずプッ、と噴いたらエースに睨まれてしまった。
自分がやった事にショックが隠しきれないマルコが、額を押さえながらエースに謝る。
「…悪ぃ。昨夜寝れなくて酒を煽ったら悪酒になっちまったよい。夢見て寝惚けちまった。」
「ちっ、しょーがねえ。」
苦々しく悪態を付くエース。
「何呑んだの?」
「その辺に瓶があるだろよい。」
部屋に転がってた酒瓶を拾って手に取ると、エースが見せろ、といいそれを渡す。
途端にげっ!と驚いた。
「これ滅多に呑まねえキツイやつじゃねえか。お前1本呑んだの?」
呆れ顔でマルコを見るエース。
「へー、そんなに強いお酒なの?」
スピリタス以上? もしくはハブ酒とか特殊系?
珍しいお酒にワクワクしながら酒瓶を見て、と同時にエースに視線をやり。
あら。
「…エース。キスマーク…。」
赤く変化した首筋を指した。
「はあ?! …マルコ!!! てっめえ!!!!」
「うっせえ!! 俺だっててめえにしたくてしたんじゃねーよい!! 誰が好き好んで野郎にキスマーク付けるか!!!」
エースがまた怒ってマルコに責めるが、マルコも負けじと怒鳴り返す。
「おい! これ消せよ!!!」
「知るか! 放置してれば消えるだろうよい。」
「ばっか! それじゃ何日もかかるだろうが!!! この糞マルコ!!!」
喧嘩する程仲がいいってホモコントみたいだ。
呆れつつ
「2人ともいちゃいちゃ仲良いねえ。」
って言ったら
「「誰がいちゃいちゃだ!!!」」
またハモって怒られた。
マルコ、単に溜まってたのかなー。それなら昨日のも納得。
なんだ、私が考え過ぎなんじゃん。
イゾウにも色々言われて意識し過ぎちゃって恥かしい。
完全に起きたマルコに安心し、
「サッチが心配してたから、食堂に顔出しなよ? じゃーね、また後で。エース、行こう?」
「おう。マルコ、詫びにてめえの昼飯もらったからな。」
プリプリ怒りつつ、捨て台詞を吐くエースと共に彼の部屋を出た。
後でイゾウとお茶した時に
「私の勘違いだったー。なんかマルコ溜まってたみたい。意識し過ぎちゃったよ。」
と笑って報告したら、あの馬鹿…とイゾウが項垂れていた。
お題:少年の唄。
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