籠女


05での軟禁中。雰囲気小説みたいなノリで_(:3」∠)_



「かーごめ、かごめ、かーごのなかのとーりーは、」

つい口ずさんでみた童謡。

それを聴いたローがクスリと笑う。

「急になんだ? 初めて聴いたな、その唄。」

「んー、あっちの世界での童謡。こんな身体になったし、小さい頃ってどんな遊びしてたかなーって色々思い出してたの。」

釦を付け直していた手元を休めて、ローとの会話に勤しむ。
ベッドに彼は横たわって私の腰に捕まり、私は彼の方に向いて女の子座りでお裁縫してたのだ。
出来る限り私と離れたくないみたいで、バスルームに行く以外はローが私に何処かしらくっついている状態が続いている。

これじゃわんこだよな。
警戒心が強くてマイペースな猫っぽいのに。
私より遥かに大きくて生意気なのに淋しんぼで甘えたがりのわんこ。


そんな事を思いながら、過去を遡る。
かごめかごめや花いちもんめとかで遊んでたのって幼稚園位だっけ?
ゲームなんて家に無かったし母親にも放置されてたから、遅くなるまで外でよく遊んでたなー。
懐かしい。

「よく唄ってたのか?」

とローが私に促す。

「そうだね。唄ってもいたけどこれだけを唄うんじゃなくて、唄いながら遊ぶと言うか…。」

軽くジェスチャーも交えて説明をする。

「数人で遊ぶお遊戯なんだけど、誰か1人”鬼”役になって目を隠して座るの。
残りの皆でその鬼役の子の周りを手を繋いで輪になって、先刻の唄を唄いながら回って。
で、唄が終わった時に鬼役の子が、自分の後ろに誰がいるのかを当てるっていう単純な遊び。」

「目隠し鬼みたいなもんか。」

「あ、ちょっと違うけどそんな感じ。こっちにも目隠し鬼ってあるの?」

「言葉の意味通りなら。子供遊びの定番だろ。」

「へー、やっぱり子供の遊びって、世界が変わっても内容は変わらないもんだねえ。」

「そりゃ結局人間の子供が考え付くのなんて決まってるからな。」

会話を楽しむロー。

良かった。
暇潰しから始めた私のお針子仕事を飽きずに見守っていたが、調度いい話題提供になったみたいだ。
いくら2年振りに逢ったにしても、閉じ込められた空間の中じゃ頭が働かないのかだんだんと話すネタが減ってきて、ネタに困ってたのもある。

「その唄、最後はどうなるんだ?」

「ちょっと待ってね。今唄うから。…かーごめかごめ、――」



かごめかごめ

籠の中の鳥は

いついつ出やう

夜明けの晩に

鶴と亀が滑った

後ろの正面だあれ



「面白えな。」

緩く笑顔を向けて私を見るロー。

「これ唄いながら、座ってる子の周りをくるくる回って唄い終わった時に”鬼の後ろは誰?”って当てるの。
私がその”鬼”役の時って、いっつも当たらなくてさー。だってずっと目を瞑ってるのに、誰が真後ろなんて解んないじゃん?」

20年余り昔を思い出しながら彼に笑いかける。

「×××の勘が悪いのは生まれつきだろうが、その唄の意味。―――色んな風に取れる。」

さらっと人を馬鹿にしたね!

「そうむくれるな。本当の事じゃねえか。」

そう言って私の頭を撫でた。
本当の事って… 酷い男だ、まったく。
気を取り直して彼に聞く。

「…唄の意味が解ったの?」

確かにこの唄には色んな意味が含まれているんじゃないか、と俗説が多々あり私も中高生の時に調べた事がある。
ローも聴いただけでそれを認識したのかな。

「ああ。”かごめ”は”囲め”な解釈は、あっちでも同じだな?」

「そうだね。”鬼”を囲んで周りを回るし。」

「後半の鶴と亀の部分は俺等の世界が違うし、解釈も変わるだろうから意味がよく解らねえが
唄全体の意味は囲われた”鬼”が殺されるか、”後ろの正面”が殺されるか――大方そんなもんだろう?」

「うん。そういう解釈が多かったね。恐い話にした方が面白いからってのもあるけど。
でも籠の中の鳥から、どうして鶴と亀の後ろが誰の〜で、殺す殺さないになるんだろうね。」

意識が手元を離れて手にしてる針が危ないから、釦を付け直していた彼のシャツと一緒に退ける。

「隠語じゃないが、表に出すにはやばいものが暗に言葉が変わり、唄われてきたのかもしれねえな。
それか時が経つにつれ本来の意味が消され、語呂のいい言葉尻を合わせただけになった可能性もあるだろうし…そっちの方が強えか?
まあそれだとしてもお前の世界って歪んでるぜ。童唄なんだろ?」

笑いながらローが私の髪をすき、耳の後ろに流した。

「確かに童唄でオカルトって言うのはちょっとアレだけど…
でも自分が体験するのは恐いし困るけど、日常の何気ないものが実はオカルトめいてたって何かドキドキするんじゃん?
だから噂と同じで自分に害はないけど〜みたいなものじゃない? 真相はこうだった!…ら恐いねって。」

「まあな。化物が自分の部屋に出たら大変だが、他人の化物経験を聞くには真実はどうであれ愉快に過ぎねえ。」

そうそう、それ!と賛同して。

「小さい頃に慣れ親しんだ唄が実は恐いものだった…ガーン!でも面白そう何それ!、な下品な心理だよ。」

と言うとローがクスリと笑った。
続けてかごめかごめの話をする。

「私も昔調べた事があるんだけど、他にも俗説あったんだよね。」

「どんな?」

「かごめが”籠女”、籠の中の女って意味合いにも取れて、囲われてる人や遊女や妊婦だったりな説もあって。
”鶴と亀が〜”を男女の出逢いにしたり、妊娠や流産に捉えたり。」

「鶴や亀がそんな意味… ――あぁ、亀は野郎の亀頭って事か?
じゃ鶴と亀が出逢ったってセックスの意味で、そんな唄が童唄って…やっぱお前の世界狂ってんな。」

「亀とぅ…って! そんな、俗説なんだからマジに取らないでよ!」

ワザと真面目な顔してそんな事を飄々と言うローにツッこむ。
ローはそんな私の反応に満足して、大きく笑いながら起き上がって私を抱き締めた。

「で? ×××は亀が好きなのか?」

「馬鹿!」

ローの胸をばす、と叩く。クックックッ、と満足気に笑って楽しそうだ。
こんな下品な話をするつもりじゃなかったのに!

最初から下品なぶっちゃけ話をしてるなら兎も角、何気ない話でぼかしたつもりなのに
相手に真面目に下品な話で切り返されると、何か照れる。

あれ、もしかして私って天邪鬼?


「×××。」

なに?

ローの顔を見ると私を静かに見下ろして。

彼の目が、顔が、纏う空気ががらりと変わり、この部屋の空気がざわりと冷たくなった。


「お前は”鬼”か?」


突然そんな事を言われ戸惑うと同時に、幼少時のかごめかごめでの”鬼”役の時がフラッシュバックし。

呪いのように唄が頭が響き始めた。


かごめかごめ、


平静さを装って答える。

「私? かごめの”鬼”なの?」

「ああ。異世界からやってきた異質物なら姿形は同じとは言え、異形の者として”鬼”だろう。」


籠の中の鳥は


「”鬼”なら閉じ込めておかなきゃならねえよな。」


いついつ出やる


「私が今”鬼”なら、ローもあっちで”鬼”だったの?」

「俺は女じゃねえがそうだな。だから×××が俺を閉じ込めて独占したんだろ?」

「あれ、そうだったっけ?」

「そうだ。」

ローが微笑み、私の頬を撫でる。
閉じ込めた覚えはないんだけどー、ともごもご言いながら彼の瞳を覗き込む。

その目はただ、私を映していた。
私だけを。



夜明けの晩に



「お前が俺を閉じ込めて。囲んで。だから今回は俺がお前を閉じ込める。」



鶴と亀が出逢った



「うーん、それだと”籠女”だね、言葉の通りに。」


慎重に刺激しない言葉を選び、音に出すと。
フ、と嬉しそうに愉し気にローが哂った。



「安心しろ。一生手放すつもりはない。」



歪な程に純粋なその笑顔。




籠女籠女、籠の中の鳥は、―――――


囲われて籠女になった鬼はどうなる?










後ろの正面だあれ



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