Нас не догонят
05での引き篭もり軟禁中の何気ない会話
ローの指や手の甲、腕の刺青をなぞる。
黒1色で入れられた、ハートの海賊団のマークをベースデザインにしたそれら。
刺青の上に重なる引っ掻いた傷がちょっと痛々しいけど、絆創膏を貼ったりとかの処置はさせてくれなかった。
「これ位すぐ治る。気にするな。」
そう言って敢えて傷を弄らせてもらえなく、しょーがないから放置。
冗談混じりに
「もしかしてロー、傷のある自分が好きとか傷ついてる自分が好きとか?」
そんな言葉を吐いてしまったら、容赦なくスリーパーホールドされた。
酷い。
それを思い出しながら、なんとなーくで聞き出せなかった質問をぶつけてみた。
「沢山身体に彫ってあるけど、2年前には既に入れてたの?」
「少しな。」
そうか、あの時にはもう悪男入ってたのか。
「入れる時痛くなかった?」
「そりゃ痛みはあるが大したもんじゃねえよ。」
ローの刺青を入れた手の甲の血管が浮き出てる処をぷにっと押す。
弾力があってぴくぴくして面白ーい。
続けてぷにぷに押して遊んでたら今度はローに聞かれた。
「刺青は嫌いか?」
「いいや。嫌いじゃないよ。好きの方かな。」
和彫りだったら気合の入れ方にちょっとビビるけど、タトゥーだと友達でもしてる子は何人かいるし、
好きなアーティストや有名人にも刺青がある人が多く、偏見は一切ない。
まじまじと彼の刺青を見て触る私にローは嫌がる事もなく。
「”好き”でも×××は入れてなかったな。2年の間に入れてもねえんだろ?」
「うん。だって一生ものって考えると、半端な気持ちで入れられないじゃん?
ローもこのデザイン1つ1つに拘りがあって入れてるでしょ?」
「ああ。」
「私にはその拘りのデザインとか”これを身体に刻みたい”って言うのが無かったし。
その先何十年と刺青と付き合ってくのだから、ファッション感覚で簡単に…って言うのも無理だった。」
そう言って首を捻りローの顔を見上げる。
ベッドの上で彼の足の間に背を向けて座って重心を完全に預け、ローは枕を背に壁にもたれていた。
彼の柔い視線を受けながら言葉を続ける。
「それに私の国、日本では刺青が入った人って温泉やプールとかサウナ、公衆浴場まで出入禁止になるの。
私達が過ごしたあの国とか外国はまだ日本よりは偏見が少ないけど、それでもあっちの世界では刺青に偏見持つ人多かったから。」
「偏見はこっちでもそうだな。刺青してるってだけで野蛮に見られる。」
その言葉にくすりと笑ってローの肩に頭をもたれて目線だけを彼に流し。
「ローはお医者さんだけど海賊でもあるから”野蛮”に見られても、まあしょうがないんじゃない?」
「まあな。人がどう見ようが構わねえし。」
彼の指が私の手の指と指の間に入り、重なるように覆われる。
「私もどっちかと言うと、他人がどう勝手に見ようと構わないタイプだけど…。
もし刺青を入れたとして温泉大国である日本で、この先お婆ちゃんになっても温泉入れない、と思うと踏ん切り付かなかったのもあるんだよね。
――そうだね、一生ものを背負うって事と温泉。それが私が刺青入れられなかった理由かな。」
そう言うとローに問われた。
「今はどうだ? 入れたいと思うか?」
「刺青? あー、元の姿に戻ったらって事だよね?」
ああ、と言うロー。
ローの刺青に視線を寄越しながら言葉を選ぶ。
「入れて欲しいの?」
「別に。×××が入れたいのなら駄目だとは言わねえ。」
刺青を入れて欲しいとも聞こえる答え。
少し巫山戯て彼に問うてみる。
「ローは刺青入れてる子と入れてない子、どっちが好き?」
「どっちでも。そんなんで区別しねえってか、穴があれば構わなかっ…っ!」
「どの口がそんな下衆な事を言うのかしら?」
相変わらず下衆い事を平気で言うローの口を、重ねられた手のまま掌で塞いでやった。
ちょっと驚かれて。
ぺろん、
「ひゃ! 舐めたね!」
擽ったさに慌てて手を離すと、バーカ、とくすくすローに笑われた。
そのまま彼に抱き締められる。
未だ手を重ねたままだから、自分で自分を抱き締めながらローにも抱かれてると言う態勢。
「…もし俺がうちの海賊団のマークを入れろって言ったらどうする?」
「それって命令?」
「違う。」
「”入れて欲しいのでお願いします”って土下座するなら考えてあげても…うっはゃ!?! ちょ! あひゃああああ!!!! っや、め!」
抱き締められたままで突然脇腹を擽られて。
「ひゃはーっ!!! ご、っめーっあっあああああ、ごめんんんーーーっっ!! って! や、はゃは!!」
己の腕も彼の手で縛られてるようなもんだから、訳解らない叫びを出しながら足をバタつかせ
笑いすぎてお腹が引き攣って息が上がったら漸く許してくれた。
鬼め!
ぜーぜー言いながら全身の力が抜けてローにもたれかかる。
「…っはー。あー、疲れた。…えーっと、なんだっけ?」
「刺青。」
「ああ、そうだった。刺青の話。」
首を捻ってローと顔を合わせる。
彼の目を見据えて。
貪欲な子だなあ、と彼の独占欲の強さに呆れながら
「私の身体に所有印が欲しいのなら、そんなの無くてもとっくに全部ローのものだけど…まだ欲しい?」
微笑み、そう言うと。
「……馬鹿、そんなんじゃねえよ、――、」
表情を隠すかのように前のめりにそう呟きながら、キツく抱き締め直された。
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