酷く幸せな春の日だった。


つなぎとめた哭声。の後話でドフラミンゴ側



×××が泣いた。

額にでっけぇタンコブ作って、涙をポロポロ零して。

うええええん、とお前は本当に子供かっての。
普段泣かないからってタンコブでこんなに泣く奴がいるか。

それとも今日1日様子が変だったし、倒れた時になんか変なもんでも見ちまったか?
ここ数ヶ月は魘されてないけど、いつまたフラッシュバックが起きてもおかしくはねぇし。

よしよし、とあやすと強くしがみ付いてきたから、多分何かあったんだろう。

抱き締めて部屋に戻り、ソファでそのまま落ち着くのを待って。
もう大丈夫だな、と思い×××を降ろして立ち上がろうとすると、シャツの裾を引っ張られた。

「…どこ行くの?」

こりゃまた何て顔すんだ、お前は。
”捨てられた仔犬のような表情”と言う言葉がピッタリなんて。

「甲板に出るだけだ。一緒に出るか?」

うん、と頷いて手を広げてきたから、そのまま抱き寄せて抱え上げた。

「じゃ、行くか。」

しがみ付くように首に回された腕に笑いながら、足を出して甲板に向かった。



航路を確認し、航海士と話した後に船べりに座り×××と適当な会話をする。
すっかり落ち着いたようだが俺から離れようとしない。

一体どうしちまったのかねぇ。

普段自分から人前でべたべたしてこない×××が、ここまで甘えるのは珍しいから楽しいが。


部屋に戻り、炭酸水を開けて飲み、それを×××にも飲ます。

ソファに座りそのまま横になった。

腕の中で大人しくしていた×××がもそもそと動き、俺の腹に乗るように移動する。
伏し目がちに眉尻を下げ、伸ばした指先で俺のシャツを引っ張った。

「…ごめんね、我侭しちゃって。」

「全然我侭言ってねぇじゃねーか。甘えただけだろ?」

「…そうかな?」

「そうだ。寧ろもっと甘えて欲しいがなぁ。」

そう言いながら×××の頬を指先で撫でた。
額にあるタンコブの方は治まっているが赤く腫れている。
どんだけ額をぶつけるこけ方したんだ。

「うん。ありがとう。」

少し照れながら微笑み、俺に覆い被さりキスをしてきた。
舌を入れる前に唇が離れて。

腹の上にまた跨り直し、言い難そうに視線をずらして言葉を出し始めた。

「えーっと、あのね。普段いつも忙しくしてるドフラミンゴに、是非気を抜いてもらおうと思って。」

「ほう。」

殊勝な心掛けが泣けるじゃねぇか。

「悪戯を仕掛けようと画策してたの。」

「…ほう。」

「すごい悩んで、色々考えたんだけどまともな案が出てこなくて、どうしようとまた悩んで。」

「…ほう。」

もしかして今日1日悩んでたのはそれか。

…頭痛ぇ。
阿呆だ、阿呆過ぎる。
真面目に何か悩んでると思ったらそんな事なんて。

「考え込んでる内に足元見てなくて、思いっ切りこけてしまったのね。」

あー… もう…

「頭をぶつけちゃって、痛いし眩暈がしたから目を瞑ってたら気を失ったのか、意識が飛んじゃって。
…久々に悪夢を見たの。」

己の指先だけを見る×××。

「私を売った人間達、犯そうとした奴、スモーカー、おつるさんにミホーク。そしてドフラミンゴ。
誰1人私の事覚えてもなく知らなくて他人だった。」

その指先が、手が震えて。

「全くの赤の他人処か汚れた咎人を見るかのように、冷たい目。
私を利用しようとしたのからは人以下の扱いの目を再度向けられて。あの目は忘れられない。…思い出したくもないのにね。
そして皆、恐かった。」

ぎゅ、と俺のシャツを掴む。
ああ、お前はまだ抱え込んでるのか。
忘れる事は出来なくても、思い出せなくなるといいのになぁ。

「私の存在がないの。ここに在る筈なのに無いの。私の在るべき場所は何処にもないって言われたようで、恐くて堪らなかった。
……その時に、ドフラミンゴ。」

顔を上げて、また泣きそうな目をして俺に微笑んだ。


「貴方が名前を呼んでくれたの。×××、って。…ありがとう。また助けてくれて。」


なんて顔してんだ、本当に。

らしくなく、己の胸がちくりと痛んだ。


「…礼には及ばねぇぜ? ×××を助けるのは俺の仕事だ。」


彼女の頬に手をやり、そっと包み込むと静かに目を閉じて幸せそうな表情をした。
俺の手の上から自身の手も重ねて、掌にキスをされる。

そのまま手をずらして顎の方にやり、猫を撫でるかのように×××の顎を撫でると、擽ったいのか笑顔が零れた。

笑った、な。

もう大丈夫だ。


「だけどなぁ、×××。そもそもの原因がちょっと… お前阿呆過ぎるぞ?」

言った途端に彼女ががっくりと項垂れた。

「はい… 自分でもそう思います。」

沈んだ声が出て、丁寧な敬語での返事に呆れながらも笑っちまった。

腰に手を回して×××をもっと引き寄せて、目と鼻の先に彼女の顔を合わせる。


「じゃあ悪戯はねぇのか?」

目をぱちくりと開いて。

「うん。ないよ。騙すなんてとんでもないと気付いたの。」

その物言いにぷ、と思わず噴き出す。

素直っつーか、純朴っつーか… 面白ぇなあ。
悪巧みするって事が本当に出来ねぇ奴だな、お前は。
だからこそ俺色に染め上げたいんだが、解ってる訳ねぇよなぁ。


「勿体ねえなぁ。×××がどんな悪戯するか楽しみなのに。…じゃ、俺から悪戯するな。」

「え、…っ、」

そう言って彼女の口を塞ぎ。


午後は全部悪戯に費やすことにした。




お題:少年の唄。


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