空腹なのは脳か心か。
7、8歳時
昼前から海に来た。
何度かこの島でのビーチも堪能してるが、前の島でのプライベートビーチ状態に比べ観光客が多く人混みに溢れたここは
活気が有るものの、それだけ綺麗さが欠けていたが
「それでも私の国の大体の海よりは比べ物にならない位綺麗なんだよ。」
と×××が苦笑いで言ってた。
ビーチに出ても基本ゴロゴロするのが好きな×××だから、大概が本読んだりだがたまに俺を誘って海の中に入ったりして遊んだ。
「お昼買って来るけど一緒に行く? それとも待っとく?」
すぐ戻ってくるけど、どうする?と言われ。
「待っててやるから買って来いよ。」
「解った。何が欲しい?」
麺が食いてえ、と答えてじゃあパッタイ(タイ風焼きそば)買ってくるねー、と屋台の方へ駆けていく×××を見送り。
一緒に行っても良かったが、いつもべったりじゃなくてもいいか、と思ってチェアーに座り直した。
勿論屋台までの距離と混んでてもそんな時間かからねえだろ、と見越してだが。
太陽が眩しく、暑い、じゃなく熱いだなこれだと、とパラソルの影にチェアーをずらしてから水を飲む。
予め冷凍庫に半分程度凍らせてたものだが、この炎天下の中でいい感じに溶けて飲みやすくなっていた。
持ってきた薄めの本を幾ページか捲った処で、×××の帰りが遅いのに気付く。
何分経った? 15分かそこらか?
いい加減戻ってきていい筈だが…
彼女が行った方向に目をやり、姿を探すと調度手に沢山の荷物を持ちこっちに戻ってこようとしていた。
…買い過ぎだ、馬鹿。
両手が塞がり、バランスを保とうと足元しか見ずにちまちまと戻って来てる。
しょーがねえ、行くか、
腰を上げた時に目に入ったそれ。
ビーチボーイが危ないよ、と言う感じに彼女に声を掛けて持ってあげる、と手を差し伸べている。
×××は自分の手の中の飯しか目に入ってなく、適当な返事をして。
遠くて何て言ってるか言葉までは解らないが、男が下心あるのだけは解る。
ハァー、と溜息を吐いて。
本を置いて迎えに行った。
「×××。」
「ロー! ごめんね、買い過ぎちゃった。…っあ! 落ち、」
飯を落とす前にそれを奪う。
左手に2人分の飯山盛りに腋に財布を挟み、右手には俺用のドリンクとビールのシックスパック。
左の食べ物の方の負担を減らしたら、後は大丈夫そうだった。
「ありがとう。」
微笑んだ後に、側にいた男にも気付き、あ、貴方もありがとー、と適当に言って。
男は途中から割って入った俺に対し明らかに邪魔だ、と顰め面をしたが彼女の言葉に一応は感情を殺し、またしつこく話しかけ始めた。
「可愛いね、君の弟?」
全くそう思ってないクセに平然と嘘を吐く男。
「ん? この子? 私の子。可愛いでしょ。」
それに対し平然と答える×××に、男が驚きの表情を出した。
「え、子供なの? 君いくつ? だって、」
「若い時生んだの。じゃーね。」
男の畳み掛けるような質問を適当にあしらい、俺と一緒にスピードを緩めずに歩く×××。
揶揄われたと思ったのか、それとも相手にされてないと解ったのか男はそれ以上は付いて来ず。
×××の顔を見上げたら目があった。
「名前も知らないのに年聞くのって失礼だよね。」
少しムクれつつも文句を言う。
その表情が可愛らしいものだったからつい笑って。
俺より年上なのにころころ表情が変わり、感情豊かな×××。
「ナンパと解っているなら最初から相手にしなきゃいいじゃねーか。」
「えー、あれってナンパって言うか商売でしょ。彼等ビーチボーイって生活懸かってるからマジもんだし。
邪険にして変に逆恨みされて、このビーチ来れなくなるのも困るからね。」
案外考えてるのな。
×××は決してモテない訳じゃなく、身体目当てや金目当てと思われる下心ある男からの誘いや視線は一切カウントしてないだけだった。
「ローが小さかった時は助かったけど、今は別に人手なんて要らないし。」
いや、あの時ですら奴等は下心満載で×××が気付かずなだけだったが。
半ば呆れながら×××を見上げる。
「純粋な人助けなのかチップが欲しいだけなのか下心あるのか、男って面倒臭いよねー。」
少し溜息混じりに彼女が言葉を放つ。
「全部無視すればいい。」
「それだと本当に優しい人だった場合に失礼じゃん。」
「気にする事ねえよ。」
「いやあ、気にしちゃうよ。」
自分達が居た場所に着き、チェアーに座って。
チェアーは2つ借りていたが1つの方に買ってきた物や荷物を置き、2人でもう1つのチェアーに腰を掛けた。
「でも先刻は来てくれてありがとうね。」
蟀谷にキスされる。
「中々返って来ねえから迎えに行っただけだ。それに自分の手が2本しかないのを考えて物を買えよ。」
「つい買いすぎちゃったんだよね。ほら、ローの分のパッタイ。人気の方の屋台に並んだからきっと美味しいと思う。」
飯とフォークを渡され、買いたての冷たいコーラも側に置かれた。
×××の方は早速ビールを開けて。
「呑むのか。」
「いいじゃん。昼間っから呑むこの自堕落さが旅の醍醐味なんだから。」
シックスパック(缶ビール6本パック)なんて買う事は、もう今日は海には入らないんだな、と解り。
後はここでぐうたらするつもりか、と相変わらずな彼女に笑う。
パッタイは×××の読み通りに美味く、それ以外にも焼き鳥やら串肉やらも買っていたから全部腹に入れて。
×××は早速2本目のビールに突入していた。
「おい。呑み過ぎるなよ。」
「うん。大丈夫。」
笑って頬を染めて俺を見つめて。
酒が入って若干とろんとしてる。
「もう要らないや。ロー、食べれる?」
すっかりビールに満足して自分の飯の方は半分しか手を付けずにいたから、殆ど食ってねーじゃねーか、と食べさせる事にした。
「ほら、口開けろ。」
あーん、と口を開けるから、そこに適当な量を入れてやる。
「よく噛め。」
うん、と頷きまくまく噛むのを確認してから、次の分を装いフォークを動かす。
「次。」
「はーい。」
大人しく口を開けて食べる×××。
彼女が租借してる間に、ついでに自分の口にも運んで食べる。
最後一口分を摘み×××の口に運び、全部食べ終った。
「ありがとー。」
満足気に笑う彼女にキスすると、ん、と唇をペロリと舐めて
「ローのキスはパッタイの味がするね。」
と綻ぶように笑った。
「色気がねー味だな。」
俺もつられて笑う。
唇へのキスは舌を入れない限りは人前でも平気になった×××だから、遠慮なくしたが確かにパッタイ味のキスなんて色気ゼロだ。
ロー、と呼ばれハンドタオルで唇を丁寧に拭かれる。
こういう処はまだ赤子扱いが残ってるが、まあ構わねえ。
その後自分の唇も拭く×××。
「ごちそうさま。あー、お腹も膨らんだし、ビールは美味いし天気は良すぎるけど最高だねー。」
とビールを煽った。
俺もコーラを喉に流し込む。
「ロー、日焼け止め取って?」
俺の側に在った日焼け止めを手に取る。
「塗ってやるから、背中向けろ。」
ありがと、優しいね、と×××が背中を向けた。
日焼け止めを一旦上下に振ってから蓋を取り、手に適量取り出して彼女の背中にぺたぺたと塗りつける。
今まで気をつけてたと言う×××の背中は確かに日焼けによるシミなどなく。
早く食いてえな、と思う。
この肌を味わえるのはいつになるんだろうか、と日焼け止めを塗ってる自分の手を見ながら頭痛がする。
以前は確かに9つで女を知ったが、まともに女を”抱ける”ようになったのはもっと年を取ってからだ。
流石にこの身体で抱くもへったくれもねえよな。
余りにも子供過ぎる。
悶々となりながら水着の下にも塗り残しがないように満遍なく塗ってると、ビーチボーイぽいローカルの男がやってきた。
今度は何だ。値段表も持ってるし物売りか?
「良かったら何かしない?」
笑いながら写真付きの値段表を出して、それなりの観光価格のアクティビティを薦めてきた。
「んー、私ビール呑んだしなあ。ロー、何かしたい?」
「別に何もしなくていい。」
こいつらなんて無視していいのに全く。
セールスがてら女に声を掛けて、商売以上の金を巻き上げようとしてるだけの屑。
俺の返事を聞き、男にノーセンキュー、と断った×××。
なのに男が立ち去らず、馴れ馴れしく色々話し掛けて来た。
何処から来たの? え、ニホン人? 君可愛いねー、と有り触れて聞き飽きた台詞。
俺の存在を無視する奴等は人は違えどいつも同じ台詞を言ってたから、これがこいつ等の定番口説き文句なんだろう。
×××も立ち去ろうとしない男の図々しさに圧されつつ、適当に答えていた。
「弟じゃないよ。私の子供。」
そして定番の質問に×××の答え。
それに全員が驚くのが当たり前になってきたが、こいつはへらへらと冗談だとしか思ってないらしく立ち退かなかった。
大概の奴は馬鹿にされたと思って去るか相手にされてないと諦めるのに、たまにしつこいのがいてこれは後者で。
「またまた〜。何冗談言ってんの。」
男が×××の身体を値踏みするように視線を動かした。
水着だからと言って、露骨に人の女の身体を見るのは気に食わねえ。
上等だ。
「×××、こっち向け。」
腕を引っ張り、俺に身体を向けさせ彼女の足の間に納まり。
「前も塗ってやる。」
×××は、ん?と少し戸惑ったもののすぐ応じて、ありがとー、と言って俺の手を受け容れた。
ワザと彼女の太腿の上に足を乗せて、足を密着しながら胸元から丁寧に塗りこむ。
男はただ目を見開いてそれを見ていた。
「…本当に子供?」
そして訝しむように彼女に問う。
まるで彼女がペドフィリアではないか、の意味合いが含まれてるのが解る。
下衆な視線を寄越しながら何言ってんだ。
俺の指先を食いつくように見てるクセにな。
×××がいつもの通りに朗らかな笑顔で答え。
「子供だよ。私の大切な息子。大事な1人息子だよ。」
俺の頭を寄せて天辺にキスをした。
奴に目を向けると視線が合ったから嘲るように嗤ってやる。
普通は実の子でも親にこんな事しねえよ。
てめえを煽る為にしてるに決まってるじゃねーか。
×××も俺の意図に気付いてるのかいないのか、全く何も言わずに俺の手が肌を滑るのをされるがままでいた。
ビールを煽りながら単に酔ってるのもあるだろうが。
いつの間にか3…違う、4本目になってるし。
ちょっとペースが速くねえか? ×××なら大丈夫な量だが。
三角ビキニで包まれた胸の中に指が入ると、流石に口を尖らせこら、と言った表情をするが、口には出さずに拒否もされなかった。
ただ、それを黙って見つめていた下衆野郎の喉が鳴っただけで。
今にも涎が垂れそうな表情に嗤っちまう。
公共の場だから奥深くまでは手を入れずに抑え、そのまま手を下の方に滑らせる。
日焼け止めのボトルを逆さまにして、直に彼女の下腹部にとろん、とそれを落としてから再度手を這わし、
腹から腰に手を回して丁寧に塗ると擽ったいのか×××が笑った。
「擽ったいか?」
「うん、ちょっと。」
笑う彼女の唇にキスをしたら、男が目を見開いて凝視したのが解った。
一々反応するのが小者らしく面白え。
そのまま×××の肌に手を這わしながら、男に目を向けて問う。
「いつまで見てるんだ? お呼びじゃねえのがもう解っただろ?」
奴を侮蔑する眼差しで十分に嘲りながら、英語じゃなく現地語で敢えて喋ってやり。
そこまでして漸く男は邪魔者だと理解したようだ。
黙って立ち上がり、俺等の前から去って行った。
「しつこかったね。ごめんね、気を使わせて。」
俺の頭をいい子いい子と撫でる×××。
「まあな。」
男は去っても手は止めずに、彼女のビキニパンツの横紐を潜るように日焼け止めを彼女の肌に塗りこむ。
「…もういいのよ? 自分で塗れるけど?」
ここまでにしとくか、と手を止めた。
周りに人がいる場所で遣り過ぎると、この身体だと流石にまずい。
解った、と素直に引き下がると×××がじゃあ今度は私がローの身体に塗ってあげるね、と言い背中を向けさせられた。
ゆっくりと彼女の掌が背中を這い日焼け止めを塗り。
終わると同時にそのままの体勢で抱き締められた。
「しつこい客引き撃退ありがとー。私の自慢の息子だもんね。」
楽しげに笑い、ゆらゆら揺れる×××は酔っているのだろう。
今日はたったビール4本で酔ったのか、と思いつつ彼女の肌の感触を楽しむ。
日陰とは言えビーチでの密着は暑いが、×××の肌となら不快には感じない。
首を捻り、彼女を見上げて。
「感謝しろ。」
そう言うと、してるよー、と明るい声で返事をされて額にキスされた。
お題:少年の唄。
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