つなぎとめた哭声。


エイプリルフールネタになってない4月1日話



こっちではエイプリル・フールなんてないけど、単純に悪戯心が走ってドフラミンゴに悪戯する事にした。
なーんか驚くような事出来ないかなー、とあれこれ策を練ったけどどれもつまんないし、コック長とお菓子を作りながら適当に相談に乗ってもらって。

「悪戯なんてよしな」と窘められたけど、大丈夫! きっと笑って許してくれるって!、と忠告をスルーして
ドフラミンゴなら怒ってもデコピンする位だろう、と軽くおでこの心配をした。


そしてやってきた4月1日!
何も仕込めなかったけど、何とか言葉で驚かせられないかしら?、とドフラミンゴをいかに騙そうかと悶々としてたら
様子のおかしい私に、何か悩み事か?と逆にドフラミンゴに心配された。

うん、ドフラミンゴをいかに驚かそうかと悩んでいるの、なんて言える訳なく。


そんなぼんやりしてた私が悪いのだけど、足元の出っ張りに気付かず廊下で思い切り転んでしまった。

いったい!!!!
うー、あんなとこに邪魔なもんあったっけ?

くらくら眩暈がするってどんだけ激しく頭をぶつけたんだ!

眩暈が気持ち悪いから目を閉じて、暫くそこに蹲る。

そうしてるうちに意識が飛んだ。





「お前誰だ?」

え?

「突然目の前に現れて何者だ? 能力者か? …気持ち悪い。」

この世界に来て初めて出逢ったあのデブい中年男。

「さっさと消えろよ。ここは俺の海だ。お前みたいなのがいると邪魔だ。それとも能力者だと高く売れるんだっけ?」


こいつの下卑た笑みは恐らく一生頭から消える事はないだろう。
まさか今一度見れるなんて思いもしなかったけど。


状況に戸惑っているとデブの姿がぐにゃり、と変わり他の人間に形成され。
今度は私をボコった海賊。

「なんだ、お前。俺に用か? 用もねえのに俺をみつめてるって事はねえよなあ。惚れたか? なんてな!」

ハハ!と嗤う男に背筋が凍る。
一体これは何?

黙ってると奴の手が伸びて私を掴もうとし、それが捩れてぐるる、と色が一緒くたに混ざった後に他の人間に変わった。


!!! …、っ、おまえ、は。


「気の強い女は堪らねえよな。それが自我を崩壊して泣き叫び命を請う姿は、滅茶苦茶クる。どうだ、お前も俺を楽しませてくれるのか?」


舌なめずりして私を値踏みするかのような視線を寄越す男。

1番思い出したくない人間、こいつの屋敷での生活、最後の晩、腐り始めた女だったもの、―――


息が止まる、なんで、やだ、いや、

強張って身体が動かない。
息すらも出来ない、苦しい、やだ、触らないで、

自分自身を抱き締めるかのように己の腕を掴んで震えを抑える。
何が起こってるの、今。

一体なに?


恐い、


「ああ? てめえ何者だ? 海賊か?」

この声はスモーカーだ、と頭を上げたけど、どうしてそんな目で見るの?
いつも怒ってるけど目が違う、そんな目で何で見るの?

「海賊なら容赦はしねえ。」

私が海賊の女になったから? いや私を忘れたの? 覚えてない?
彼の手にした大きな十手が私を指している。

捕まっちゃうの、か。


そう思った途端にまたぐにゃり、と人が変わり――

――今度はおつるさんに。


「何者だい? どうやって此処に忍び込んだ?」

冷静に私を見据える目は今まで目にした事のないもの。
私をいつも見守るあの温かい目ではなく、咎人を見るかのような冷たいもので。

私が解らない?

どうして、


「答えられないなら仕方ない。手荒な真似をしたくないのだけどね。」


彼女の腕が伸びる。

息を飲んだ。


動ける事無く近付くその手を見つめてたら、またうねりが始まり。

おつるさんが今度はミホークに変化した。


きっと今度もそうだろう。

誰も私を知らない、解らない。


「お主は誰だ。」


ただ真っ直ぐに射るように見つめられる。
×××だよ、と言いたくても声が出ない。

言ってもどうせ解りっこない。
誰も私の事を知らないのだから、誰1人私を知らない世界、それはこの世界に来た時と同じ。


たった1人な自分、誰も私の事なんて知らない、居ても居なくても同じ。

1人ぼっちなわたし。


「答えれぬのか。それとも答える程の存在でもないのか?」


両方だ。

”私”という存在がただあるだけの、違う世界から落とされた異質物な私。

帰る家もなく元の世界に還る事も出来ずにただこの世界に息をしているだけの、ちっぽけな人間。
誰からもモノ扱いされて人間とすら見られなかった、そんな最下層の私。



何も答えられずに静かにミホークを見返してたらまたぐにゃ、と揺れて。

大きく姿が形成されて、ドフラミンゴになった。


「誰だ、てめえは。」


何回も問われ当たり前になってた対応をされ、予め解っていても突き刺さる言葉。

尖った空気を纏わりつかせて私を見下ろす彼がいた。


こんなドフラミンゴは初めてだ。
私には寄越した事の無い目がサングラス越しに感じる。

彼に歯向かった人間達にしたのと同じものを初めて受けて、ショックで固まった。

絶対的に守られる者として安心して懐に入ってたのに、そこから追い出されて単なる知らない人間になった私。


「なんだ? 口が利けねぇのか?」


相手するのも面倒臭そうに口を動かす彼。


止めて。

もう、いやだ、これ以上は何も聞きたくない、見たくない、いや、

誰もが自分を知らない、存在を否定するのなんて聞きたくも見たくもない、もう沢山、


ドフラミンゴ、貴方さえも私を否定するの?


ここはどこ、


恐い、


こわい―――





耳を塞ぎ目を瞑って胎児のように小さく縮こまる。


存在を否定された私は何処に在ればいいの、私は何なの、この世界に居ては駄目なの、何なの、何、なに、


ああ、

いや、


――――、








「×××?」


名前を、呼ばれた。


「×××。」


もう一度。


「×××、起きろ。」


ゆっくりと瞼を上げて首を捻る。

ドフラミンゴ。


「どうした? こんなとこに倒れて。」

彼以外の背景が目に入り、確認するまでもなく先程私がこけた場所だった。
手をつきながら起き上がると、ドフラミンゴが側にしゃがみ心配半分呆れ半分で私を見ていて。

「額にでっけぇタンコブ出来てるぞ。」

「…っつ!!」

触られて激痛が走り。
それが切っ掛けとなり涙がボロボロ出てきた。

突然の涙に驚いたドフラミンゴが慌てて焦る。

「そんなに痛ぇのか? すまねえ、」

違う、痛いからじゃないの、違うの、そう思っても言葉に出せず、そのまま涙は止まらずで。

「悪かったなぁ。ほれ、来い。」

困ったように謝り、そっと私を優しくき締めてくれ背中をポンポンと叩いてあやしてくれる。


それが私には堪えて。

うええええん、と泣いて更に困らせてしまった。


ごめん、ごめんね、ごめんなさい。
貴方の優しさに甘えてごめんなさい。
いつも微温湯に浸かって守られて当然の態度してごめんなさい。
好きなのに生意気な態度ばっかり取ってごめんなさい。
我侭言ったりしてごめんなさい。


「どうした、倒れてる間に悪い夢でも見ちまったか?」

「な"ん"、でもない"、っ、…っつ、っふ、」


おーおー、恐かったなぁ、と頭を撫でられて。
彼の大きな手が私を包む。


「大丈夫だ。」


その一言に癒される。
ありがとう、ドフラミンゴ。


彼にキツく抱きつく。

こんなにも守ってくれる貴方を心配させてごめんなさい。





この世界での私の礎は彼によって齎されたものなのを再認識して。


エイプリルフールの事など何処かへ飛んでしまって、悪戯で彼を騙す、と言う気持ちすら消えてしまった。


後で素直にドフラミンゴに悪戯しようと計画に夢中になり過ぎて、足元不注意でこけて変な悪夢を見てしまいました、
と泣いた事情を彼に教えたら、呆れられてしまったけど。



お題:少年の唄。

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