Killing Me Softly


赤子時代のお話



温かさに満足しながら目が覚めると×××の胸の中だった。
むちむちとした胸の感触が好きだ。
目の前の肌に顔を擦り付ける。柔らかい。

「起きた?」

頭を撫でられて微笑まれる。
喉が渇いてたから遠くの水を取ろうと少し暴れたら、はいはいちょっと待ってね、と抱え直され
俺の望みを察した×××が、ストローを指した水を飲ませてくれた。

少し飲んでからそれから口を離すと、水が零れたらしく丁寧にハンドタオルで口元を拭かれる。

「今日は海で遊ぼうか。」

そう話しかける×××。
今日は、じゃなくて今日もだろ、と心でツッコミして。
手を伸ばして彼女の頬を掴んだら、私の頬が好きねえ、と楽しそうにしてた。
触りやすいからな。


バンガローから降りてすぐだからか、×××はスリングを使わずに俺を抱えてビーチに出た。

彼女に抱かれて波打ち際を歩き。
途中降ろされて両腕で支えられながら覚束無い足で砂浜を歩いて。


この世界に来て数日、すっかり赤子状態に慣れて×××に依存して甘えてた。

×××は全くの見ず知らずの赤子である俺の面倒を見る事を決意してから、だらだらとした日々を過ごしていた。
時々は出掛けたけど基本はバンガローか海でのんびりしてる。
出掛けてもボートですぐの隣町程度だ。


緩い生活は嫌いじゃないが、こんなダラダラした生活を送って大丈夫なのか?
まあ俺には関係ないけど。


そんなだらけきった生活して毎度の海で遊んでた頃だった。


「すみません、」

×××に声を掛けてきた男がいた。
白髪かかった金髪の髭面で背が高く、一見してこの国の人間じゃなかった。

「はい?」

俺を抱きながら振り向いて×××が返事をする。
何だこいつは。言葉に出せない代わりに奴を睨む。

「写真を撮らせて頂けませんか?」

「へ? あ、この子の?」

俺の訳ねえだろ!
阿呆か、と×××を睨み上げる。

「赤ちゃんと貴方の貴方達二人。お願いします。」

「えー。いや私達この辺歩いてるだけだし。写真はちょっと…」

断ろうとすると男が焦ってビジネスカードを出してきた。

「あ、すみません、私カメラマンしてて。これ、どうぞ。」

受け取り、それを眺める×××。

「この住所、アメリカですよね。イリノイって事はシカゴとか? そちらで?」

その言葉に男がはい、と喜び。

「普段はスタジオ専門なんですが、纏まった休みが取れて念願のアジアの旅に出たんです。
それで今回は人を撮りまくってて。良かったら撮らせて頂けませんか?」

男の言葉にうーん、と悩んでる×××。
面倒なら断っちまえよ。
その意思表示のつもりで彼女の頬をぺちぺち叩いたり引っ張ったりする。

「…プロのカメラマンに撮って貰う機会って普通ないもんなー。マイケル、どーする?」

巫山戯半分で俺に聞いてきた。
だから好きにしろって。
彼女の両頬を伸ばすと、そのカメラマンが更に売り込んできた。

「お願いします。モデルになった事を後悔させません! 是非、貴方達をここで撮りたいんです。」

その男の言葉を聞き、暫く×××が悩んだ末にOKを出した。
結果的に俺も撮られる事になるが。

「撮ったやつ、メールでもいいから頂けます?」

「勿論!! ありがとう!!!」

カメラマンは喜んで破顔した。


手にしたカメラで俺等をファインダーに収め始めて。
この世界のカメラは俺等の世界の物とは大違いでデジタル化されてた。
×××の持ってるカメラや電気機器もそうだが、町や外でそれらを見る度に文明の高さを驚くが
×××はそれを赤子が興味を示してる位にしか思っておらず、俺はそれをいい事に色々弄らせてもらったりもした。

「何かポーズとか必要?」

「いいえ、自然でいいです。先程みたいに、極自然のままで自由にして下さい。」

カメラマンがそう言って×××を促す。
そんな事言っても緊張しちゃうよね、と×××が笑って俺の頭にキスをした。


×××はしょっ中俺にキスをした。
母性に目覚めたらそんなもんか。よく解らないが嫌いじゃなかった。
最初は鬱陶しくて仕方なかったのに、赤子の自分を完全に受け入れたら意外と心地良かったから、拒否せずにされるがままにした。

沢山キスする割に口にはしないから潔癖なのかと思ってたら、ある時×××が口にキスしてきて。
その途端に「しまった! つい口にしちゃった!! ミュータンス菌がー!」と騒いで。
いや私今虫歯ないから大丈夫? あーでも虫歯菌が移っちゃった?!と心配された。

なんだお前、そんな事心配して唇避けてたのか、と思い却ってこの×××と言う母親代わりに更に好感が持てて。
この身体で最初に出会った女がこいつで助かった、とつくづく思った。
まあお人好し過ぎるとこはあるがな。


×××が俺に微笑みながら語りかける。
他愛の無い会話。
人差し指で頬を突かれたからその指を握って口に含むと、コロコロ笑いながらそれは食べ物じゃないよー、と言い。
鼻にキスされる。擽ってえ。


カメラマンは勝手に写真を撮ってるみたいだ。
全く指示をせず、黙々と静かにファインダー越しに俺等を見つめて、時折パシャ、と音が鳴る。
いつしかそれさえもBGMになり、×××ももう全く気にせずいつも通りに俺と遊んでた。


×××の指を離してまた頬を引っ張って。
真横に伸ばして阿呆面させても怒らずに、おもひろひ(面白い)?と楽しそうに聞いてきて、こっちも笑い。

もっと伸ばしたら、あいただだ!って言ったから伸ばしすぎたみたいだ。

「このー!!」

そう言って頬を擦り付けてきて。
擽ったくて笑い、それに満足した×××がまた俺にキスする。今度は頬だ。
自然と顔が綻ぶ。


赤子になった自分は自分でない。
この俺がいつもこんな無防備な笑顔を晒す訳がない。
普通にしたいのに×××に抱かれて胸の中にいると、自然と頬が緩んだりいつの間にか寝てたり。
彼女の体温を、出逢ったばかりの赤子に惜しみなく出す愛情を、気持ちいいと傍受して微睡むなんて。


瞼が重くなる。
どうもこの身体は本当にすぐ眠気がやってきて、いくら寝ても寝れる。

「眠くなっちゃったねー。」

俺の様子に目を細めて囁く×××。
小声で唄を唄う。
俺の知らないこの世界の唄。
何度ももう聴いて子守唄のようにそれは俺を誘い。

彼女の胸の中で安心に包まれて。
ゆっくりと目を閉じた。

後に聞こえるのは彼女の唄。


転生前はそんな甘いものに触れた事はなかった。





後日、幼児に成長した時に×××がネットブックと言うものを開いて騒いでた。

「すごい良く撮れてるよ! 流石プロ!! ちょっと私じゃないみたい… プロってすごい…」

そう言って俺を抱き上げて見せてくれた画面には、あの時のカメラマンが撮った写真が広がり。


笑ってる俺を慈しむように抱き、幸せそうに微笑んでいる×××の姿。



見た瞬間にどきりとした。

「ローも可愛いねー。ん? ちょっと待って… FACEBOOKにもこんなに載せて!! ひゃー世界配信されちゃった!!」

×××がけたけた笑って。
ま、よく撮れてるし構わないかー、と納得してる。

「ローもこの写真欲しい?」

じっと凝視してたら心を見透かされたように声を掛けられて。

「…いらねーよ。」

そう言ったものの、画面から目を離せられない俺に×××は笑い。

「はいはい。」

そう返事をした。

これは俺じゃない、こんなの俺じゃない、と思いつつも画面の俺が幸せそうで愛情を一心に受けてるのを誇りに思い、更に嫉妬した。
なんで嫉妬する?、と混乱始めた時に×××に抱き直されて今一度彼女の胸元に納まり。

「自慢の息子と一緒に、インターネットで世界配信されちゃったねー。」

頬にキスをされる。
嬉しそうに微笑む×××を見つめて、何とも言えなくなり首に抱きついて気持ちを誤魔化した。


きっと俺は転生して子供還りしてるだけにすぎない。
じゃないと母親役のこの女のキスや笑顔を、こんなに嬉しく思う訳がない。
自分のものだけに出来ず、沢山の人間に俺に向けた×××の笑顔を晒すのを不快に感じるなんて、子供の独占欲なだけだ。

くそっ。



それは自分の中の感情を持て余し始めた時の始まりだった。


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