アガペー至上主義 後
前篇から続いてます
「さー。次は仲良く綺麗になってもらおうと思ってな。化粧対決ーー!!!」
うおおおおお!!!!!と周りの歓声が盛り上がるが、ちょっと待て。
今なんてった?
「これからサッチとエースには後ろのパートナーから、可愛く化粧をしてもらうぜ。」
「馬っ鹿じゃねえの?!! なんで化粧なんかすんだよ!!」
怒る俺にサッチも乗る。
「いい加減にしろよラクヨウ!! てめえ俺等をネタに遊び過ぎだろ!!」
ヒッヒッヒッと悪巫山戯感満載の顔をしてるラクヨウにいくら言っても何も聞かねえ。
それ所か、後ろから×××が
「えー、それ面白そう!! 私エースに化粧出来るの?」
と期待に満ちた声で聞いてくるのが何とも言えねえ。
×××…
それをあざとく耳に入れたラクヨウが調子に乗って×××に声を掛けた。
「×××は化粧したいよな?」
「うん! したい!! 人に化粧ってした事ないからしてみたい!! 前見えないけど!!」
どっと笑いが起こる。
ああ、もうこりゃ駄目だ。
諦めの極致でサッチと目を交わして溜息を吐く。
「どっちにしたい?」
「え?」
「エースとサッチ、どっちに化粧したい? ×××?」
「選べるの? どっちがいいだろう… ねえ、エース、私に化粧されたい?」
「ちょっと待て。ラクヨウ、それってパートナーが相手に化粧するんじゃなくて、対戦相手に化粧するのもありなのか?」
「ああ。選ばせてやる。二人して連携しながら対戦相手の顔を綺麗にするか、ウケを取りにいくか。
反対に自分達でパートナーの顔を綺麗にするか。どっちがいい?」
×××がうーん、と悩んでいる。指示するにも俺の顔自身が見れないしサッチの方がやりやすいんじゃね?と思って
対戦相手に化粧をするにしようぜ、と提案すると、解った!じゃあそうする!!エースの顔を弄れないの残念だけど、と笑われた。
あれ? そっちの方が良かった?
俺選択ミスした?
「やっぱ「対戦相手に化粧しますー!!!」」
言葉を覆そうとしたら、×××がラクヨウに元気に返事をしてしまったとこだった。
ん? エースなんか言った?と言われて、いやなんでもない、と笑って。
ま、どっちでも勝ちゃいーんだもんな。
「よっし! って事でサッチとマルコ!! お前等がエースを綺麗にしてやれ!!!」
「おっけーい。」
サッチの返事の影でマルコの返事までは聞こえなかったが、不敵な笑みが聞こえた気がした。
ああ俺すげえピエロになりそうな予感。
「じゃあこれは時間制限でそうだな…一分で綺麗にしろ。いいか?」
「えー、時間が足りなーい。」
「じゃ二分。」
「もっと。」
「…三分。」
「何とか。」
「解った、じゃあ三分でいくぞ! いいか、綺麗になるか笑いをとるか。期待をしてるぜ!!!
化粧品の提供はナースのお姉さま達だ!! 彼女達の好意に応えて存分に綺麗になってくれよ!」
紙風船割りより更に近く手が届く範囲でお互いがいる。
×××をおぶった形にしているが、彼女も手を伸ばせばサッチの顔に十分届く距離だ。
紙風船時と違いお互いが近くなったからマルコや×××の声も十分相手側に聞こえる感じ。
「よーし!! レディ…GOおおおおお!!!」
ラクヨウの声が轟き、×××とマルコの腕がテーブル上を弄る。
「×××、その隣がファンデーションだと思う。それ。」
「おいマルコ、それチー…」
ゲフッ!
「マルコてめえ!! いきなり顔面にケースごと塗りつけてくる奴がいるか!! って止めろ!!」
顔左半分をチークで塗りたくられる可哀想な俺。
皆爆笑してるのがすげえムカつく。
「化粧の仕方なんか知るかよい。諦めろ。」
「てめえええええええ!!! ×××、サッチの顔も同じようにしてやれ!!」
怒って×××に指示すると、何食わぬ感じで
「えー、やだ。楽しみたいじゃん。」
って、丁寧にサッチの顔にアタリを付けてスポンジでファンデーションを塗っていた。
塗られてるサッチの方も、フフフン、と楽しげに俺を見下ろしている。
くっそうううううやっぱ対戦相手ってのは失敗だった!!!
「ちょっとー! エース指示してくれないと解んないじゃん!! ファンデ全体的に塗れた?」
「あーあー、全部塗り終わってるから次行こうぜ。」
やる気なく返事してる間にも、俺はぐりぐりと次のアイシャドウをマルコに付けられてんだけど。
マルコ、違えよ。そこは瞼じゃなくて鼻だ。
サッチの笑いを堪えてる顔が忌々しい。
「じゃあ次は眉書くからアイブロウペンシルかなんかある? 左? これ? ありがとー。」
×××が左手をペタペタとサッチの顔にやって、またアタリを付けて眉を書いていく。
ぶっ
「……×××、それ……」
「可愛い?」
サッチの自眉の上に一本線で引かれたそれは、なんつーか…
「笑いたかったら笑えよ、エース。ムカつく野郎だな!!」
「ぶあっはっはっはっは!!!!!」
「本気で笑いやがったな!! ×××! お前は俺の味方だと思ってたのに!」
「へへへー。」
楽しそうに×××が笑い、次にチークが欲しいと言うからマルコが使ってたやつを指示しようとしたら、
それに気付いたマルコがチークを手に取り。
「×××。ほら。」
と彼女の手を掴んで、それを渡した。
「ありがとう!」
そう言ってまた手探り状態でサッチに化粧を続ける×××だが。
……………なんだ今のは。
マルコめ、馴れ馴れしく手を掴んだな。ってか目見えんの?
「お前、目やっぱり見えてんの?」
「見えてねえよい。気配がしたからな。」
「いや、今度は俺もびっくりだわ。」
サッチも驚いた顔でそんな事言うけど、お笑いにしか見えねえ。どこのコメディアンだ。
マルコへの嫉妬心は早くも消えてぶぶぶ、と笑いがもれる。
俺も順調に色々塗られてえらい事になってるみたいだ。
「エース…お前化粧ってよりアートな顔してるぞ…」
頬にでっかくチークを塗られて林檎になった一本眉のサッチに言われても困る。
ぎゃーもう最高!!!
「ぶあはっはっはっはっはっはっ!!!! サッチ最高すぎるー!!!!」
周りの奴等も俺のアート?な顔とサッチの前衛的な顔に大爆笑だ。
ラクヨウは声も上げずに腹を抱えて転がって震えている。
「エース、次口紅ー!」
「っ、右手の俺寄りの手前に、ある、ぞ… ぶぶぶ」
笑いながら位置を教えて。
ひーっ!とサッチの顔にウケてたら口紅を探し当てた×××がそれを左手にして。
「おお! ついに最終段階だな!!」
「マジかよ! これ以上また笑われちまうのか俺…」
ハーッ、と溜息まじりの顔をしてるサッチだが×××の行動は予想外の方向に行った。
右手でサッチの顔をなぞり口の位置を確認すると。
そのまま紅を一気に引くんではなく、薬指に少しだけ付けて。
右手の人差し指と中指で丁寧にサッチの唇をなぞってゆっくりと唇を確認する。
そして中心部の部位にそっと紅に染まった薬指を落としていく。
下唇を終えたら、今度は上唇で同じ事を繰り返して。
誰もが固唾を飲んだ。
あれだけ騒がしかった野郎共が誰一人息をする事すら忘れたようだ。
「あれ? 失敗? 静かになっちゃった…」
その×××の言葉に今度は一気にうおおおおおおおおおおおおおおと男共が吼えまくる。
なんだなんだなんだなんだなんだなんだ今のはなんだ!!!!!
阿呆な化粧面してるサッチも未だ呆然としてる。
様子が変だからマルコが顔を出してきた。
お前それルール違反…
ってか
「×××ー!!!! お前何考えてんだ!!!!!」
やっと我に返って怒ると、×××が、へ?と驚いて。
無理矢理顔を出させて更に言葉を出そうとすると、ラクヨウの声が響き渡った。
「この勝負、途中だがエース・×××チームの勝ちー!! 結果二対一でエース達の勝利だ!!!」
それを境に更にまた皆が大盛り上がり、どっと人が寄せて来たから何がなんだかうやむやになって。
「エース! やったね、勝っちゃったー!!!! って!! なんて顔して…!!」
と言ってるうちにどんどん皆に絡まれて輪に入らされた×××を尻目に、アートな俺と前衛的なサッチと何が起こったのか解ってないマルコ。
「エース… お前苦労するなあ。同情するわ。」
サッチが吐いた言葉が憎たらしい。
「何があったんだよい?」
「いやー… ありゃクるわな。おっそろしい奴。」
「??」
サッチの訳解らない説明に意味不明な顔をするマルコ。
するとイゾウが近付いてきた。
「よ! 着物貸した甲斐があったじゃないか。存分に楽しませてもらったよ。×××、いいじゃないか。気に入った。」
「それはどういう意味でだ?」
くすくすとイゾウが笑うのを睨みつけるが更に笑われた。
「そんな顔して睨まれてもなあ。エース。お笑いにしかならんよ。」
言われる通りだがムカつくなこいつ。
「ほら。濡れタオルとクレンジング持ってきたんだから感謝しろ。」
シート状のクレンジングの前についでだから顔を見ろ、とイゾウに手鏡を渡されてぎゃああああああ、と沈む。
俺こんな顔でいたのか!!!!
サッチのひえええええええなんじゃこりゃー!!!!って叫び声も聞こえた。
お互いこれで隊長としての威厳も何も無くなっちまったよな…
「マルコ!!! てめえ今度リベンジしてやるからな!!」
「覚えとくよい。」
飄々と言われて不貞腐れながらもクレンジングシートやタオルで顔を拭き捲くると、ようやくいつもの顔に戻った。
一応気を使ってくれたイゾウにあんがとな、と礼はするが。
やっぱり先刻の言葉が引っ掛かるから宣言をする。
「イゾウ。×××は俺のだ。渡さねえぞ。」
そんな俺の態度など屁ともせず、余裕綽々の態度で笑うように言われた。
「さあねえ。×××はモノじゃないよ、エース。」
その言葉にカッとなるが、なんか口が出る前に×××が飛んできて。
「エース! オヤジさんが呼んでるから行こうよ!! 勝ったから祝ってくれるって!!!」
俺の腕を取りながらもイゾウに気付いて、あ! 着物ありがとうございました!! 洗ってお返ししますね!!、と丁寧に礼を言う。
「俺が洗って返すから今はオヤジの元に早く行け。さ、エース?」
サッチに促されて×××もそう? じゃ、お言葉に甘えて…、と着物を脱いでサッチに渡し、
再度イゾウにお礼をしてから俺を引っ張ってオヤジの元に連れてった。
納得がいかないままその場を離れたけど、サッチの機転が利かなければ仲間同士で揉めただろうから、あれで良かったのだろう。
イゾウの言った台詞にも態度にもムカつくが、相手にしてこの場を悪くするのもなんだから気にしない事にする。
現実に俺の手の中に×××の手があり、彼女がしっかり握っているのは俺なんだ。
よし。
「オヤジ、御褒美に何くれると思う?」
気持ちを切り替えて×××に話し掛けると、笑顔いっぱいで
「さあ、なんだろう?! どきどきするね!!」
って返事をされた。
その笑顔を見て思う。
やっぱり×××は俺のもんだ。
俺のモノで何が悪い!
お題:少年の唄。
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