君がここにいるから僕はここにいる


エース誕生日話。二人が再会した後に初めて祝うエース誕の設定。




エース、


エース、



…なんだ?
声が聞こえる。


×××の、声。


ああ身体がだりぃ。
動かねえ。

目を開けるのも面倒臭え。
つか、それさえもキツい。


あー、俺海に落ちたんだっけ?


カウントダウンと同時のバレバレのサプライズパーティーを仕込んだ皆に、嬉しくなって泣けて恥ずかしくなって照れ臭くなって。

弾けて山のように酒を浴び場を楽しんでたら、俺を放って二番隊の奴等と談笑してた×××に嫉妬して絡んで
よろけて足を滑らせ船べりから落ちたんだった。


記憶に残る皆と×××の叫び声。
あー、やっちまったよなあ… 新年早々ってか俺の誕生日に。


「エース、目を開けて。」


×××の声が震えてる。

これ以上心配させまい、と何とか目を開けた。

「エース! 、良かった!! 目を覚ましたんだね!!」

顔を歪めて口元を押さえるように震えてる×××の頬を涙が後から後から濡らし続けた。

「…すま、ねえ… なあ、泣くなよ。」

「泣かすのは何処の馬鹿よ!! どんだけ心配したかと…、 っぐ、…っ、…ひ、」

動くようになった手を延ばして、ポロポロと涙を零し顔に手をやり俯く×××の頭をゆっくりと撫でる。
俺を心配して泣いている×××に切なくなるのと同時に、こんなに思ってくれてるのが嬉しくなり心が動く。


俺の、俺だけの×××。
俺しか×××の心に今いない。
嫉妬した二番隊の奴等も他の隊長達もオヤジもあの忌々しい七武海も誰もいない。
最高の誕生日ギフトじゃねーか。


おいしょ、と何とか上半身を起こして×××を抱き締める。

「すまねえなあ。心配させて。」

「ばか。エースのばか。」

「ああ、悪かったって。ごめんな。」

「エースなんかアホンダラだ。ばか。」

「はいはい。」

何と言われても愛おしくて、背中をポンポンと優しく叩きながら頭にキスをする。

……………えーっ、と。

「なあ、なんで×××までずぶ濡れなんだ?」

全身潮の香りがして。まさか。

「そりゃお前が落ちたと同時に×××も飛び込んだからだよい。」

「マルコ!」

振り向くと冷めた目で俺等を見てるマルコがいた。
これは怒っている。

「×××も泳ぎが得意じゃねえ筈なのに、エースが落ちた途端に我先に飛び込んだなんていじらしいじゃねえか。
まあ結局俺等からすりゃ二度手間なんだけどな。
深夜の海にどんな理由があろうと飛び込むなんて無謀もいいとこだ。」

サッチも怒ってる。リーゼントがヘタレてサッチ自身もずぶ濡れだ。
って事はサッチが救助してくれたのか。

腕の中の×××がぴくり、と肩が跳ねて。
手を顔から離して、涙を湛えた真っ赤な目でマルコやサッチを見て謝った。

「ごめんなさい…」

皆に迷惑かけました、と更に続く言葉を遮る。

「×××は悪くねえ! 俺が悪いんだ、×××を怒るのはお門違いだ! 怒るなら俺だけにしろ!!」

強く断言してマルコ達を睨みながら×××を再度今度は強く抱き締める。
おお、俺、今ちょっとキマッたかも。


マルコとサッチがニヤリと口角を歪み上げた。

あれ?

「おい、聞いたかマルコ。じゃあ遠慮なくエースを殴れるな。」

「当たり前だよい。事の発端はエースの下らねえ嫉妬からだし、これは教育的指導だ。」

「普段から注意してんのに口で言っても解らん奴は、身体に叩き込むしかねえよな。」

「ああ。誕生日祝いって事で徹底的に叩き込みたいよい。」


え、ちょっとマジ???


「マルコ、サッチ、楽しそうにしてる皆も。ねえ、確かに嫉妬深いエースは問題だけど海に落ちたのは不注意なだけだし、
今回私が事を大きくしたんだから怒るなら私も一緒でいいよ。」

「×××…!」

×××の優しさに惚れ直しながらマルコ達の対応に唖然と呆けてたら、突然腕の中の彼女を奪われる。

「?! 、え?」

見上げるとそこにはイゾウが×××を胸の中に抱き抱えて立っていた。

「イゾウ!! てめえ、×××返せ!!!」

「何言ってんだい。ずぶ濡れのまま夜風に晒し続けるつもり気か?」

ぐ、と言葉に詰まる。確かにそれは不味い。
×××の服が濡れて身体にぴったり張り付いて絶妙に男心をそそる姿でいるのを、これ以上野郎共の視線に晒したくないし風邪を引かれても困る。

「イゾウ、いいよ。イゾウの着物が濡れちゃうから降ろして。」

イゾウに抱かれて慌てながらも奴の着物を濡らすまい、と接触を避けようと身体を仰け反らせる×××の身体を
イゾウは却って力強く腕の中に包み込んで、着物の袖で濡れた×××の顔や首筋を丁寧拭いた。

「着替えればいいだけだ。気にするな。それよりこんなに身体が冷えちまって可哀想に。風呂行くぞ。」

「え。」

俺の間抜け声が出た。
風呂とはなんだ風呂とは!!!!!!

「イゾウ!!!! てめえ死にてえのか?!!」

そんな俺を見下ろし、くすりと笑いながら

「別に一緒に入るなんて言っちゃないだろ?」

とイゾウが答える。
ムッカつく…!!!!!

余裕綽々の表情で今度は×××の方を向き、誘うように彼女の耳元で今度は言葉を吐いた。

「×××が一緒に入りたいなら別だがな。」

「イゾウ!! 何言ってんの!」

顔を赤らめて驚く×××。
ああもうイゾウ抹殺してやる。

「てっめえええええ!! ぅあたっ!!!!」

頭上に大きく衝撃が当たり、くらくらする。
後ろを振返るとマルコが右手に握り拳を作っていた。

「お前はまずは説教だよい。」

マルコが蟀谷に青筋立ててる。
表情は笑顔なのに怖えええ!

「イゾウ、早く×××を風呂に連れていけ。本当に風邪引くよい。」

「ああ。後は宜しくな。」

「な、ちょ、待…!」

マルコに一瞬怯んだ隙にイゾウが踵を返して船内に戻って行くのが視界に入る。

「エース、ごめんねー! お先にお風呂入ってるからー!」

イゾウの肩越しに×××の声が聞こえて返事をして

「おう、俺も後で行く! 待っとk「何お前堂々と一緒に入る宣言しちゃってんの?」」

たら、サッチにバックチョークを決められる。
ぐあ! ちょ、タンマ!!
奴の太い腕にタップしてギブを訴える。
落ちる、落ちるって!!!

落ちる寸前に腕を離されて、うつ伏せになり肩で息をしながら黒い影が俺にかかり。
恐る恐る首を上げるとそこには怒った鬼達がいた。

「…マルコ、勘弁してくれよ。新年早々俺の誕生日に怒る事ねーじゃねーか。
サッチもシャワーか風呂入った方がいいぞ。」

苦笑いしながら宥めたけど、許してはくれなそうだ。

「今日だけは、と思ってたのをぶち壊したのは誰だよい、エース。」

「お言葉は有難いが濡れた位で体調崩す程、俺はヤワじゃねーからな。」

フフフ、と嫌な笑みを湛えて俺を見下ろす二人に観念して、これからこってり絞られる事を覚悟した。


あーあ、ついてねえなあ。酒も完全に抜けちまったし… ちっ。



その後散々説教と拳を貰った後にオヤジからも鉄拳制裁を受けて、ズタボロになって二番隊隊員に抱えられて風呂に行き
やっと部屋に戻ると、×××が笑顔半分心配顔半分で迎えてくれた。


「エース、大丈夫?」

白のパイル地のふわもこなパーカーとショートパンツのセットアップを着込み、ベッドの上で微睡んでいる。
時間も明け方近いし、待たせて夜更かしさせちまったか。
その隣に座って胡坐をかく。

「ああ。ちょっと効いたわ。あいつ等だけじゃなくオヤジにまで拳骨もらったからな… 流石にオヤジの拳は痛えな。」

ぷ、と×××が笑う。

「誕生日なのに拳骨いっぱいもらっちゃったね。」

「そーだぜ、俺可哀想じゃね?」

おどけてそう答えると、くすくす笑い続ける。

「んー、ちょっと何とも言えないかも。落ちたのは運が悪かったけど嫉妬深いのは改善しないとだしね。」

「んだよー、×××もんな事言うのかよ。大体なんで俺放って隊員達と話してんだよ。」

反論すると呆れた様子で×××が返事をした。

「何言ってんの。エースはサッチ達と馬鹿騒ぎしてたじゃん。それに二番隊の人達に隊の事とか聞いて何が悪いの。」

「×××も俺等に混ざればいいじゃねーか。」

「ってかさ、いつもの皆と馬鹿騒ぎはいつでも出来るけど、偶には隊員さんとも呑んでみたいじゃん?
エースやサッチと仲が良いって事で私、隊長じゃないのに隊長みたいな扱いを受けて皆に気を使われてるし。
もっと皆と仲良くなりたいし、私の知らないエースの過去話とか隊長話とかも聞きたいじゃん。
彼等がエースをどんだけ尊敬して慕ってるかとか、二番隊冒険話とか戦闘話とか。
…そういうのって、そういうのでも嫉妬すんの?、エース。」


×××の話を聞いて頭痛がしてきた。
×××はこんな野郎だらけの大所帯にやってきて、色々不安を感じてるに決まってるのに。

仲間内でも×××は少なからず良くない反感をもらってた。
彼女がこっちに来た状況が状況で仕方ない事でも、当時の俺達の×××探しへの労力とすれ違いの割に×××の苦労してたに全く見えない様子に加え、
白ひげ海賊団に来て隊長達にすぐ可愛がられてる様子は、やはり良く思わない者が仲間内でも出て当然だった。
俺等がいくらフォローしても一度芽生えた負の感情はそう簡単には消えやしないから、少しづつ皆に認められればいいよ、と
少し辛そうに彼女が言いながら己自身を責めてたのは知っていたが。

俺等が何も気にせず接してれば×××に反発してる奴等もいつかは気が変わるだろう、と大して気にもせずそいつらを相手にもしなかった。
その上で自分はいつも嫉妬するだけしていて、肝心の×××の心は置き去りにして。

今回も俺の誕生日で一緒に浮かれている隊員達に自分から近付いたのだろう。
二番隊で×××に不信感を抱いている者はいないが、少しでも仲間に近付きたかったに違いない。


「…………すまねえ。」

項垂れて謝ると、頬を包み込まれた。
そうして顔を上げさせられ額を合わせられる。
じんわりと彼女の体温が伝わり、温かい。

「…私もごめん。」

×××がゆっくりと言葉を紡ぐ。

「エース。誕生日、おめでとう。なのに嫉妬させてごめんね。」

「…………。」

言葉に詰まった。
お前は全く悪くないのに謝らせて。
最低だ、俺。

「エース。今日は確かにエースを最優先させるべきだったね。なのにごめんね。
エース達隊長の皆のノリにちょっと付いてけなかったの。」

…あー、そー言えば確かに普通に女が入れないってか、引くような馬鹿騒ぎをしてたっけ…

「だから、仕切り直し。」

え?

戸惑ったと同時に顔を上げられて額にキスをされる。
頬にはまだ×××の手が置かれたまま。

「改めまして、エース。お誕生日おめでとう。エースの誕生日を一緒に祝えて嬉しいよ。」

静かに柔らかい笑みを湛え、俺を見詰める×××。

「エースに出会えて良かった。…態々違う世界の私に逢いに来てくれて有難うね。そしてこれからも宜しく。」

再度唇が近付き、俺の唇に重ねられた。
ただ唇と唇を合わせるだけの優しいキス。

「大好きだよ、エース。」

彼女の口から零れる言葉は俺を容易く揺さぶる。
簡単に。
とてもイージーに。

「エース。」

×××に抱き締められる。
彼女の胸の中に顔を埋めて背中に手を回す。

「エース。大丈夫だよ。私は今、ここにいる。エースの腕の中だよ。そして私の腕の中にエースがいる。」

「私はここに在り、そしてエースもここに在るんだよ。」

とくん、とくん、と×××の心音が聞こえる。
それを聞いて安心し胸から身体をずらして×××の腰に抱き付いた。
彼女の臍辺りに服の上から口付ける。
ふわふわとした洋服に包まれた×××のお腹を見詰めて、そこを優しく撫でる。

フ、と思う。

彼女の子宮は温かいのだろうか。いや温かいに決まっているだろう。
命をかけて俺を生んでくれたお袋も、生きてたらこんな感じに温かく安心する存在だったのだろうか。
いつもより×××に母性を感じるのは唯単に今日は自分が生まれた日だからだろうか。

俺の、俺だけの×××。

女として勿論求めているけど、もしかしてそれ以上に彼女に母性を感じてるとか。
だから無性にしがみついて離したくないのか。
出逢った時から半端ない包容力で包み込んでくれた×××の懐のでかさは、いつまでも変わりがなく。

気持ちがいい。
ずっとずっと包んでいてほしい、と思う。



柔らかい肌と温かい体温と×××の甘い匂いを全身に感じ、彼女の呪い(まじない)のような言葉が俺の身体を弛緩させて気だるい。

「エース。」

名前を呼ばれるだけでどんどん身体が解れて融けるようだ。
優しく頭を撫でながら×××は俺の名前を呼ぶ。

「エース。」

融ける、

「エース。」

、融け――――――…




そこで意識を手放した。


目が覚めた時にはいつもの笑顔がまた迎えてくれる事を感じて。



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