100g25円の勇気。



今日は近所じゃないスーパーで月に一回の爆安セールをする日だから、行ってくれたら嬉しいなー、との×××の言葉に
楽しそうだから二つ返事でOKしたのだけど。

普段家計を預かってる主夫としての立場として、食材を安く手に入れられるなら喜んで!!だ。
平日なので×××は会社があるから必然的に俺一人で行く事になり、事前に×××がPCからプリントアウトしてくれた
店の地図と行き方を手に気合いが入る。


その地図を片手にスーパーに向かったら、既に俺より気合いが入ったおばさま達で店外まで溢れていた。


おお! 始まってる!! 俺も負けられないもんね!!


そうしていそいそと店の中に入ったのだけど、そこはグランドライン以上に戦場だった。



「今からもやしが一袋五円!! 五円でございます! 数に限りがあるのでお急ぎ下さい!!」

「只今から玉子一パック五十円! 千円以上お買い上げのお客様に限り、特別価格で御奉仕させて頂きます!
お一人様一パック限りの特別奉仕品でこちらも数に〜」

「牛乳がなんと一パック百二十円の特別価格! なんと普段は二百円以上する○○メーカーですよ! こちらお一人一パックと〜」


店員のアナウンスと共に人が殺到し、瞬時になくなるセール品。


最初訳が解らずにのんびりしてたら、後ろから何度もおばさま達にぶつかられて追い越され、
チッ!と舌打ちされたり「アンタ!邪魔よ!!」と押し退けられたり。


ひ、ひどい…

お、俺一応海賊でそれなりな立場で強い筈なんだけど…ここではそんな強さもクソ程の役にも立たずに
殺気立ったおばさま達にやられっ放しだった。


すげえ。

余りの皆の勢いに呆気を取られて、出足を挫いていくつか取れなかった爆安品が悔しい。
同時刻ではなく、時間差であっちこっちでタイムセールが行われるから、いつも人の波や店員の動きに神経を尖らせてまるで狩りそのものだ。

よし! 行くぜ!!

いつも食糧調達に先陣切って島に向かうサッチ様の本領発揮、出させてもらおうじゃないの!!


改めて気合いを入れ直した時に聞こえてきたアナウンス。



「只今から鳥の胸肉、なんと国産胸肉をg25円で提供させて頂きます!! 国産、国産ですよ!! ブラジル産ではなくなんと国産でこのお値段!!〜」


だーーーっ!!!


急いで現場に向かう。

既に戦地と化して敵はうようよ居るが、誰よりも背が高くリーチもある俺にとってはまだ射程範囲内だ!

店員が鳥胸肉を入れたトレーを出してきた瞬間に多数の手が伸びる中、何とか三パック確保!!


おっしゃー!!!!!!


いそいそと籠に入れて次のアナウンスを待つがてら、他にも安売り品がないか店内をウロウロする。


「只今からピーマン四袋で百円!! こんなに入って百円です!!」


うおおまた始まった!! 急げ!!

野菜売り場に急行してピーマンを百円分ゲットして、籠に入れようとすると。


…肉が一パック足りねえ。

あれ?
俺三つ手に入れたよな? なんで?

…もしかして今のピーマンセールのどさくさで、こっそり籠から誰かに取られたとか…?!


うあああああああ!!!!! 何だこのバトルは!!!!
グランドライン以上じゃねえか!!!

セール品の確保だけに留まらずに、手に入れた物にも目を離さずにいるなんて高等スキルがいるのか!
なまじっか買う前の物なだけに、現場押さえなきゃ文句も言えねえし!
もうおばさまなんて言ってやんねえ! 畜生、俺の鳥胸返せ!!

拳を固める。久々に燃えてきたぜーーっ!!

くっそおおおおおお!!!!!!

負けねえぜばばあ共ー!!!!!!



それから更に戦士と化した俺はその日沢山の戦利品をゲットする事が出来、会社から帰った×××に
得意満面顔で俺の戦士振りを語ったら、ゲラゲラ爆笑されたのだった。


「サッチ最高!! いやーいい主夫だよ、もう!!」


当たり前じゃねえか。フフン。


勝利を祝ってその日は大吟醸を呑もうよ、と×××に誘われて。

呑みながら次の爆安セールには更なる戦利品を持ち帰る事を誓ったら、×××の顔が更に砕けて楽しそうに笑われた。


「サッチ、嫁においでよ。」

「いやそれ俺がエースに殺されるって。」


あはは、冗談だよ。だからこういう時はただ、おう!って答えればいいんだよ、と屈託無く笑う×××。


「解った。じゃあ×××、不束者ですがよろしくお願いしますーってか?」

「うむ、くるしゅうない!」

「それ何か違う返事だと思う。」

「気にするでない、近うよれ!!」

「×××、それお代官さまになってるけど。ってか酔っ払いすぎ!」


あははお代官さまだねー、酔っ払っちゃったー!と酒が回って頬が赤く染まり、陽気に笑う×××の声が響いてた。



まあ、俺がもしモビーに戻れなかったら本当に嫁にしてもらうかもだけど、な。


それは胸の内に収めて、手にした酒を喉に流し込むとアルコールで身体が焼け付く気がした。


お題:少年の唄。

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