エスケープ


来日して三週間目頃?のお話



突然のお呼ばれが掛かった。

「んー。今から?」

「そう! 今すぐ!! 明日土曜で会社休みでしょ?! 今すぐおいでよ!」

「行ってもいいけど、友達がいるよ?」

「構わないって!! 一緒においでよ!」

「解った。じゃあ行けたら行くわ。」

絶対おいでよ!!ってうるさい友達の声を無視して電話を切る。

酔っ払いめ。
こっちはもうシャワーまで浴びて、のんびりまったりな金曜夜を過ごしてたのに。

ビールをぐびっと煽る。

「どーしたの? 呼び出し?」

唐揚げを摘みながらサッチが聞いてきた。
今日の唐揚げも美味いね。下味がよく染み込んでて最高。
ジューシーでさくっと衣がしてああ、酒が進む味。

「友達から。今から呑みに来いって呼び出し。あっちはもう出来上がってる感じだけどね。」

唐揚げを私も摘まんでもしゃもしゃ食べる。
ウマー!

「行くの? 今から?」

サッチもビールをぐびりと喉に入れる。
時計を見ると九時を回っていた。

「んー。どうする? サッチ行きたい? 行ったら帰り遅くなるかもしれないけど。
友達は女「行きたい。」」

女と聞いて即かよ。
呆れ半分、まあこっちに来て私一人だけしか遊び相手いないのも可哀想だよなあ、と思い直して同情心が芽生えて。

「解った。じゃあ用意するから、サッチも着替えてね。」

急ぐの?って聞いてきたから、急がなくて全然大丈夫だよ、と言ってまた唐揚げを口に入れた。


軽く化粧位するべきかな?と思ったけど夜遊びする訳でもないから、しない事にした。
態々呼び出されて気合い入れてドレスアップするのも、面倒臭いしね。
それに奴等は酔っ払いだ。
そんな相手に化粧して着飾るのも馬鹿らしい。


ガラベーヤからブラックデニムとブラトップに着替えて、薄手のロングカーデを重ねた。
サッチは原宿で買ったシンプルなシャツにUSEDのデニム。
頭もセットしたいみたいだったけど、私のお友達はきっとナチュラルな人が好きだと思うなー、と言ったら簡単に諦めてくれた。
相変わらずちょろくて可愛いけど泣けてくる。


サッチのお財布に今夜幾ら掛かるか解らないから、一万円入れて。
私は三千円。
んー、まあカード持ってれば何とかなるか。
呑み代何人かで割るなら支払い役して現金回収すればいいし。


荷物は持ちたくないから小さいポシェットを斜めがけにして、適当にカードとお金を突っ込んだ。


「よし、じゃあこのビール呑み終わったら行きますか。」

そう声を掛けたら、おーっ!!って掛け声が返ってきた。



呼び出された場所に着いたのは結局十時を回っていて。
先刻電話した時より友達らは更にいい感じに出来上がってる。


「おっそーい!! 待ち草臥れて飲んじゃったよ!」

「何言ってんの。こっちだって態々に電車乗って来てあげたし! 一応急いだんだから。」

個室タイプの居酒屋で男女合わせて六人位で、女が二人に男が四人だった。


…もしやこれって女が足りないから呼び出ししたのか。

うわー。やられた。

しかも呼び出してきた友達以外は皆初顔合わせだ。
聞かなかった私も悪いのだけど、これはないよなあ。


ごめんね、サッチ。
そう思って後ろを見上げたら、サッチは勿論そんな内情を知る訳でもないから、楽しそうに皆を見て、

「全員×××の友達?」

って聞いてきた。

「いや、呼び出ししたコレ以外知らない。ごめんね、友達何か酔っ払ってるし、帰ろか。」

そう踵を返そうとしたら、コレにがっし!と腕を掴まれて。


「ちょっと! ×××!! あんた彼氏付きで来るって言ってなかったじゃん!!! ってかいつ彼氏作ったのよ! しかも外人!」

後ろにいたサッチが私の連れだと漸く認識した友達が、ギャーギャー騒ぎだした。


「彼氏カッコイイじゃん! 何よ紹介しなさいよ!」

うああー面倒臭ー…
彼氏じゃないのを否定するのも面倒になってきた。

一応此処に来る間にサッチと適当に話を合わせといたけど、予想外の状態に言葉が接げない。

でもサッチの為にも誤解は解かなきゃねえ、と思い


「彼氏じゃないよ。お友達。」

サッチ、と手を引いて友達に彼を改めて紹介すると、友達は既に目がハートになっていた。



席を詰めてもらい、サッチは友達の隣に、私はサッチの反対側の隣に座った。

するともう一人の女の子が

「席、変わって頂けません?」

と、NOと言わせない笑顔で言ってきたので、はい、と素直に席を替わってやった。
すげえな、肉食系に挟まれちゃったよサッチ。

やっぱモテるんだねえ。

サッチも久々に私以外の女と接触出来たみたいで楽しそうだし、連れて来て良かったかなー。
我が子のモテ振りを見るようで嬉しくなってきた。
オカンにでもなったみたいだな。


用意されたビールで改めて皆で乾杯をして。

男性陣から話し掛けられた。
ナンパの如く色々質問攻めが四人からきて。…四人?


うおっ! しまった!
サッチ投入で女三人の内二人がサッチに夢中になって、残り私しか女がいない!!

私いま、すげえ面倒臭いポジションにいね?


「呑みが足んないよ〜! ほら、呑んで呑んで。」

四人の中のチャラい男がどんどん酒を薦めてくる。
呑み潰そうって魂胆か。
よろしい。
負けないもんね。


「私、焼酎が呑みたいな。」

ニッコリ笑ってボトルを頼んだ。



久々の両手に花状態にデレデレになったサッチを尻目に、私は男達をどんどん呑み負かせて。
到着した時点でいい酔っ払いだったから、それに追加で焼酎を呑ませたら簡単だった。

勿論皆付き合ってくれるよね?、と強制的に男達のサワーを水割りに切り替えさせたから潰れるのが早い早い。

私の方は家でビール一本しか開けてなかったし、サッチの御飯も食べて胃に物が入って酒を呑んでるから絶好調。
適当に呑みながら状況を楽しんだ。


しかしまだ潰れてないしつこいのが。
チャラくないし外見は悪くないけど、そんなにガッつかなくても…
変に女に対して自信があり、落とそうと頑張る人は面倒臭い。


グビリとグラスを傾けて酒を喉に通して、ちょっと息抜きにトイレに行こうと席を立った。


「×××? 呑み過ぎたか?」

後ろを通り過ぎようとしたら、サッチに腕を掴まれ軽く引っ張られ頬を撫でられる。
…早く消えろ!って両隣の女達からの視線が痛い。
すんませんねえ、お邪魔しちゃって。

「いんや。トイレ行くー。」

「大丈夫か? 揺れてんぞ。」

「ん。ちょっと酔ったかも。」

へへへ、と笑って返事をすると、気遣いサッチ発動。

「無理すんなよ。キツかったら帰ろうぜ。」

「大丈夫だって! サッチも楽しんでるし、まだまだだよ!」

そう言ってサッチの腕を解いて、トイレに向かった。


ちゃんと心配して見てくれてんだなあ。
しっかりしないと。

負けないと思ったものの、男達が作って寄越す水割りは強めに配分されたものだった。
ロックで呑んだりもするから強さには慣れてるけど、ちょっと思ったより酔ってるかも。


トイレで用を済まし手を洗って鏡の自分を見ると、見事に酔っ払いがそこにいた。

いかん、ペース落とさないと。
明日はサッチとお出かけする予定だし。

おしぼりで手を拭き、それを使用済み籠に入れてからドアを開けた。


「ねえ、二人でバックレない?」

先刻の頑張ってた男か。にーちゃん、しつこいよ。
こんなとこで張られると、どん引きなんだけど。

「いやだ。まだ呑むから勝手にどうぞ。」

「そんな事言わないで。楽しいから。」

勝手に一人で楽しんでろよ。
前を通せんぼしないでくれる?

「私、皆と呑む方が好きだから。」

「だって、皆潰れてるし、女の子達は×××ちゃんの友達目当てで、全然話してないじゃん。」

うっ…確かにそれはそーなんだけど。

「彼も満更じゃ無さそうだし、俺達は俺達で別に呑む方がよくね?」

…サッチ、もしかして今晩お持ち帰りコースなのかなあ。
それなら私帰った方がいいかしら。
一応お金多目に渡したからホテル代とか払えるだろうし。

「ねえ、聞いてる?」

「あ。ごめん。聞いてなかった。」

酔っ払っちゃって〜、って誤魔化して。
取り敢えず一旦席に戻ろうとしたら、手首を掴まれた。

「放して。席に戻るから。」

「だから二人の方が楽しいって。」

人の話を聞かない奴だなー。そんなに飢えてんの。
ウザっ。
一発どっかで抜いてこいよ。
何で私に絡むかなー。

無理矢理振り解こうとした時。



「×××。」


助かった! サッチ!!
喜んで声がした方を振り返った。


「何してんの。ほら、おいで。おにーちゃん、悪いけど手ぇ放してくれる?」

サッチが優しく語りながら、私の掴まれた腕に手をやろうと伸ばすが、目が…



初めて見た。

こんな目をするサッチ。




私の手首を掴んでいた男は、サッチの迫力にビビってすぐ手を離して。
酔っ払って赤らんだ顔なのに、青冷めていた。

まあ自業自得かな。


サッチが私の肩を抱き、席には戻らず出口に向かう。


「じゃあ、私達帰るから。後はよろしくー。」

一応振り向き様に男に最後そう声を掛けて、店を出てすぐタクシーに乗った。


行き先を運転手に告げて、少し落ち着いてからサッチにお礼を言う。


「サッチ。ありがとう。助かったよ、絡まれて参ってたんだ。」

「×××、すまねえ。」

「え、なんでサッチが謝るの?」

驚いてサッチを見る。

「俺が一緒にトイレ付いて行ってたら良かったからなあ。」

「いや、あれはあの男が悪いだけで、そこまでサッチがする事なかったんだし。」

「でも「あ、ちょっと待って。携帯。」」


ポケットの中でブルってるので、取り出すと今日呼び出ししてくれた友達からだ。

面倒臭…。
絶対ギャーギャー文句言うんだろうなあ。

画面を見詰めていたら、サッチに誰?って聞かれたので、先刻の私の友達からだよ、と答えたら、ああ、って返事がきた。
着信は出るの面倒臭いから、放置して。


「出なくていいの?」

「うん。もうどうでもいい。」

そっか、とサッチが頭を撫でてくれた。


今頃、勝手に帰ったー!って、怒ってんだろーなー。
でもあんな女の人数合わせの呑み会に、何も言わずに呼び出す方が悪いし。
適当に当て馬にしようとしてたのかしら。
前から女より男重視の奴なのは解っていたけど、流石にこういう扱いは腹が立つ。

あ、そういえば呑み代払ってないわ。
まあ別にいっか。
呼び出されて嫌な思いさせられて、金まで払うのって馬鹿らしい。
友達の縁が切れても、あんなのいらんから構わんな。

でも、サッチの事を考えると――


「ごめんね。まだ彼女達と話したかったんじゃない?」

「ん? 別に?」

すっ呆けて何でもないって顔をされる。
この気遣い屋さんめ!

「サッチ、今日お持ち帰りされなくて良かったの?」

ぶはっ!!ってサッチが噴いた。

「な、に言ってんの、×××!」

「いや久し振りだったろうし…。もしどっちか気に入ってたんなら、折角の機会なのに悪かったと思って。」

「阿呆か! そんな心配しないでくれる?!」

サッチ、顔がちょっと赤い。

「照れてんの? 大丈夫だよ。平気だから。溜まるのはしょーがないし。男だもんね。」

「俺が平気じゃないんだって! なにその溜まるって!!」


なんだ、普段は下品な事言ったりセクハラまがいの発言するのに、こっちからそんな発言すると恥ずかしいって、可愛いじゃない。
中学生みたい。きゃー。


「サッチー。可愛い奴め。」

頭を撫で撫でしてやる。
すると益々顔が赤くなって。


「止めてくれる…?」

恥かしさで両手で顔を隠してしまった。



そんなサッチの新たな一面を知って、おっさん萌えがきゅんきゅん来て、調子こいて頭に抱き付いたら固まられてしまった。


「ちょっ…! ×××?!」

「いーから、いーから。黙って抱かせなさい。」

「おまっ、おっさん臭っ!! この酔っ払いめ! セクハラだぞ!!」

「何をぉー?! 抵抗すんなっ! いいじゃん頭位貸しなさいよ!」

「いやー! 止めてー!」

照れんなよ、サッチ!
無理矢理抵抗するサッチを胸の中に収めて満足してたら、運転手さんが恐る恐る


「お客さん、指定された処まで来たんですが…これからどう進めばいいですかね?」

と、聞いてきた。


OH! 運転手さんに一部始終の馬鹿騒ぎ見られちゃったね!

ちょっと恥かしくなって、慌ててその先のコンビニまでお願いした。
そしてタクシーから降りて。
代金は男を立てるって事でサッチに払ってもらった。


タクシーを降りた後サッチと顔を見合わせて、てへっと二人で笑いあってコンビニに入って。

アイスを買って、食べながらアパートまで帰った。



特に何も無いけど沢山お酒を呑んで騒いで、何気に楽しい金曜の夜を過ごしたのだった。



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