This Moment
誘拐事件から少ししてのお話
ゴフッと血が零れる。
口から流れる赤いそれを拭う事も出来ずに、ただ蹲るだけの私。
「どうした? もう終わりか?」
ガッと足蹴にされ、身体が跳ねて引っ繰り返り天を仰ぐように仰向けになった。
痛みなんて感じない。
もう痛覚を感じる事が出来ずに麻痺してるようだ。
ただひたすら重い。
ここで死ぬのか。
大好きな太陽に見守られて死ぬのも悪くない、とぼんやりする。
「何を考えてる。」
その言葉を投げかけた人間を見やる。
こんな強い人間と闘いちゃんと相手にされて戦場で散るのって、戦人として最高じゃないか、と思い自然と笑顔になった。
「…己の死に様。」
逆光で相手の表情までは読めないが、心のままに言う。
「戦いに明け暮れた人生で最高の結末だね。こんなに強い人間と闘えて敗れるなら本望だ。」
「悔いはない。」
きっと私は満足した顔をしてるだろう。
やるだけやって全てを出し切った後に、後悔なんてものはない。
「殺せ。」
そう笑顔で言い放ち、目を閉じた。
数秒の後、闇が広がって呼吸が完全に止まった。
がばっっ!!と起き上がる。
心臓がどっくんどっくんしているのが解るけど、両手で身体のあちこちを触って確認する。
繋がってるね。首もどこもかしこも!
……夢にしてもなんちゅーリアル……
昨夜寝る前に読んだ小説に没頭し過ぎたのか。
それとも誘拐事件で暴力や血を身近に感じ、染まってしまってるのか。
自分が闘いに明け暮れる戦士となり、敵と闘い敗れて死ぬなんて。
それも絶対的強者との闘いに敗れて、死んでしまう事を極上の喜びみたいに受け容れて――
何処のバトル漫画だよ! 北○の拳とかじゃあるまいし!
そして問題なのが、その最後に闘って敗れた相手がドフラミンゴだったって事だ。
余りにも身近な人間でキャスティングしすぎじゃないの?って自分に呆れる。
でもストーリーとして、キャスティングとしては夢の中としても中々だったから、意外と脚本として良かった?とか阿呆な事思って
隣で寝てるドフラミンゴを見た。
私がどたばたしたので、何度か身じろいだけど起してはないみたい。
そっと手を額にやり、優しく撫でる。
額に口付けて。
「…×××…?」
起しちゃった。ごめんね。
黙ってそのまま彼の頭を抱いた。
呼吸が苦しくないよう、気を付けながら優しく、でも逃さないように。
胸の中でドフラミンゴの柔らかい息遣いが感じる。
私の様子で何か感じ取ってくれたのか、そのままドフラミンゴも体勢を変えて横向きになり私に抱きついて。
体温をもっと感じるようになり、まどろみながら彼の頭を撫でる。
夢の中の私は彼に殺される事を本望としていて。
全ての力を出し切り、満足して死という喜びを獲得しようと笑顔だった。
現実の私を生かすも殺すもドフラミンゴ次第だけど、夢の中にまで依存してるなんてね、と呆れながらそれに酔う。
殺されてもいい、と思ったり、私を殺してもいい、と思う程の感情があるのってある意味素敵じゃない?、
と気の触れた感情を味わって。
儚い世界だとしても、己を殺したいと思ってくれる人間がいるのなら、私が今この世界にいるという存在の証だよね、と思って目を閉じた。
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