呆れるくらい名前を呼んで



一緒に暮らして一ヶ月が経った位のお話



はあ、と溜息を吐く。

決算処理が溜まって机に向かいっ放しで全身がガチガチだ。
粗方書類を始末し終えたので机から離れ、軽く首を廻したり肩を解す。

「あ”ー。ガッチガチじゃねぇか…。」

気分転換にどっかの海賊共の始末でもするか。
偶然現れてくれると楽だがなー。
態々探してになると面倒臭ぇし。

あーあ。

ソファに横になりサングラスを外してテーブルに置き、眉間を指で軽く揉む。

眼も疲れた。
働きすぎだ。俺。

また溜息を吐いていると、そっと音を立てないようにドアが開き、甘い香りと共に×××が入ってきた。

「あれ? 休憩してるの?」

籠を手にして近付いて来る。
その籠をテーブルに置き、俺の様子を腰を折り伺い見て。

「もしかして起しちゃった? ごめんね。静かに入ったつもりだったんだけど。」

少し背凭れ側に身体をずらしてスペースを空けると、×××が俺の胸元近くに腰を掛けたから、そのまま腰に手を廻す。

「…いや。起きてた。ちょっと疲れてな。横になったばかりだ。」

「私も手伝えたらいいんだけど。ごめんね。何も出来なくて。」

「×××、俺しか出来ない内容だから謝る必要はねぇんだぜ? 社長が忙しいのは当たり前だ。」

「そっか。いやそうなんだけど。せいぜい邪魔にならないよう存在消すしか出来ないってのも何だかね、って思って。」

フッと笑って×××の頭を撫でた。

「気ぃ使い過ぎだ。それで何してたんだ?」

「新作カップケーキに挑戦! 前回より少し甘さ控えめで、その分デコってみましたー!!」

×××が手を伸ばして籠を指す。
コロコロと×××の掌いっぱいのサイズの色鮮やかなものが何個も積まれていた。

「おーおー。よく出来ました。」

「ふふふ。先刻味見したら美味しかったから、自信作なの。後で食べよう?」

「今食う。」

「いや疲れてるんでしょ? カップケーキは後でお茶でも煎れるから、その時にでも食べようよ。」

×××が微笑みながらそう言い俺の頭を撫でて。
甘い香りが手先にも染み付いたのか、ふわりと鼻腔を擽る。

「ああ。そうだな。後でもらうわ。」

そう言って自分の頭にあった×××の手を取り、甲にキスをする。
そのまま匂いを嗅ぎ、指先にもキスをして舌で舐める。

甘ぇなぁ。
マシュマロと砂糖の味が僅かにするのと×××自身の身体の甘さ。
好きな女の肉はこんなに甘いもんなのか。

舐めた瞬間ビクリ、と反応した×××だったが、すぐにくすくすと笑い

「カップケーキはあっちで私じゃないよ。」

そんな事を言っている。

知ってる。
ただお前を舐めたいだけだ。

「そっか。あまりに甘い匂いがしたから間違えちまった。」

ニッと笑って巫山戯て返事をすると更に×××の顔が綻ぶ。
そして、そんなに甘い香りがするかしら?と反対側の手を自身の鼻に寄せて嗅いだりして。

「あ、ホントに甘いかも。」

クスクス笑う。

その様子を見ながら彼女の指先にまたキスをして。
そして腰に深く抱きつき、目を瞑る。

「少しこのままで居てくれ。十五分経ったら起こせ。寝る。」

柔らかく頭をまた撫でられ。

はあい。

そう返事が聞こえてきた。

甘い香りの漂う×××に包まれながら、簡単に意識を飛ばして。
一瞬で落ちる位に深い眠りに入った。



…ンゴ、  ドフラ…、 ……、

ドフラミンゴ、 ……ドフラミンゴ、 ドーフーラー…、



俺を呼ぶ声がする。
ああ、×××だ。

瞼をゆっくりと上げた。

「やっと起きたね! 良かったあ。」

笑いながらまた俺の頭を撫でる。

とっくに十五分以上経ってるのに起きないんだもん!って笑っている。

「どれ位俺を呼んでた?」

「んー? 軽く五分は超えてるよ。疲れてるようだし、このまま寝させたいけど仕事締切迫ってるなら起さないと駄目だろうし。」

私なりに悩みながら起し続けたんだからね、とくすくす笑っている。

「ほら、ドフラミンゴ、起きて。」

朝ですよー、と巫山戯て×××が言う。
甘い香りと甘い声に包まれて目を覚ますのも悪くねぇなぁと思い、笑いながら×××に声をかける。

「名前を呼んでキスしてくれたら起きてやる。」

ぽかーんとした表情をして、頼まれて起したのにいつの間に立場が逆になってんの?!って×××がキョドるのを目に入れて。
その様子が楽しくて笑ったら、×××の顔も笑顔にまたなって

「なーに言ってんの。ドフラミンゴ。起きて。」

俺の頬を包みこんで、額にキスされる。

「×××ちゃん、キスって言ったら口と口に決まっているじゃねぇか。」

「お、こ、と、わ、り! 贅沢言わないの!」

そう笑いながら×××が俺の腕を引っ張り、起き上がらせようと立ったので、俺も身体を起す。

「目覚めにコーヒー煎れるから待ってね。」

コーヒーの準備を始めた×××を視界に入れながら、軽く伸びをして一息吐く。

「濃いやつ頼むな。」

そう言ったら、はーい、と返事が返って。
サングラスを掛ける。

よし、仕事再開するか。




その後濃い目のコーヒーと共に食べたカップケーキは、×××の指先同様甘く。
食べながらカップケーキより×××が食いたいんだがなぁ、と言ったら怒られた。


普段は昼寝なんてしないが、昼寝するのもアリだな。
そう気付かせてくれた日になった。



お題:INVISIBLE GARDEN

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