素直すぎる感覚器には蓋を


※Dilemma19でマリージョアに着くまでの間に遇ったお話



×××はよく歯磨きをしていた。

単純に綺麗好きかはたまた歯磨きが好きなのか、とか思ってたが磨いてる時の様子を見るとどうも違う。
食事をした後に歯磨きするとは限らず、何かに思い立ったように急に始める時があった。


そうして今も歯を磨き終え、ほぅっとした顔をしてソファに座る×××に話し掛ける。

「何故そんなに歯磨きをする?」

ぎく、とでも言うように身体が強張って俺を見上げた×××。
すぐ視線を外し、苦笑いをして誤魔化そうとしている。

「綺麗好きなだけだよ。」

「お前は偏執的に洗ってるじゃねぇか。嘘言ってんじゃねぇよ。」

「………うそ、じゃない。」

「あぁ?」

反抗的な態度にムカついて顎を掴んで目線を合わせた。
いつもの芯がある目ではなく、悪夢を見た時と同じ澱んだ目。


つまらねぇ。

また何かに捕まっているのか。


「…うそじゃないよ。だって私、汚れているんだ。」

何がだ、と口に出す前に×××は言葉を続けた。

「仕方なかったとはいえ、自分からあいつのモノを口にして。噛み千切って。
私の口の中に奴のモノだった肉が。血が。
気持ち悪くて忘れたいのに、忘れられなくて。」

「時々、急にこみ上げてくるの。全てが気持ち悪く、私の口が汚くて嫌で取っ替えたいけど出来ないし。
それで。
…洗ってると気が紛れるし、少しでも綺麗になった気がするから。」

×××の独白を黙って聞いた。


俺はお前のその噛み千切る程の勝気さを気に入って俺のものにしたのに、お前自身はそれに苛まされてたのかよ。

ちっ。早く言えばいいのに。


「×××。」


唇を重ねた。

その途端に目を見開く×××。抵抗しようとした腕を抑え込み、唇を割り中に侵入する。


接触を避け逃げようとした×××の舌を逃がさず、丹念に絡める。
相手を刺激するように、なのに焦らすように丁寧に嬲って。
混ざり合うお互いの涎を塗りたくるように×××の舌に纏わせて。


×××の息が上がり、身体が震えだした。


…っと。これ以上は俺が我慢出来なくなっちまうわ。

名残惜しむようにゆっくりと×××の舌を解放して唇を舐めてやり、顔を吐息がかかる程度に離す。

「、ド、フラミンゴ…?」

頬を紅潮させた×××が困惑顔で俺に問う。

イイ顔してんなぁ。
続きが出来ないのが惜しい。

「俺は汚ねぇか?」

「??? 何が汚いの? 何処が?」


「汚い×××とキスしたのに汚くねぇのなら、お前も気にする事ねぇじゃねぇか。」


その途端×××の顔がハッとする。
俺の言いたい事が解ったようだ。


×××の顔がゆるりと笑顔になった。

「ありがとう…。ドフラミンゴ。」

その様子に満足し、ニッと笑って言葉を掛ける。

「そんなん一々気にしてたら娼婦達はどーすんだ。」

「それ女性蔑視…ってか、彼女達は別に毎回噛み切らないじゃん。」

「噛み切る専門娼婦が居たら怖すぎるじゃねぇか。男の浪漫が無くなるから止めろ。」

「何馬鹿な事言ってんの!」


いつもの会話に戻って。
元気になったようだったから暇潰しに甲板でも出るか、と立ち上がった。


「ドフラミンゴ。」

左手の人差し指と中指をぎゅ、と掴まれて。

「ありがとうね。」

微笑みを湛えた×××に改めてそう言われ、俺は口角がぐっと上がるのを抑えきれず
笑って彼女の頭を撫でて部屋を後にした。



やっぱあのままの流れでやっちまえば良かったかな、と思いながら甲板に向かう足取りは軽やかなものになった。



お題:少年の唄。

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