並盛最強のあの人
目の前を歩くリボーンについていくご一行。案内されて着いたところは、応接室だった。
綱吉を抱えてる山本と獄寺は、扉の前で止まる。
「……ここ、ですか?」
応接室と書かれた扉の前で、獄寺は少しだけ困惑する。彼とて、応接室が何のためにあるのかを知らないわけではない。
だが、リボーンはそうだと言うように頷く。そして戸惑うことなくその扉を開けた。
「へぇー……こんないい部屋があるとはなぁ」
「応接室はほとんど使われてねぇんだ」
確かに部屋中はがらんとしていて、赤いソファが二つとその間に挟まれるようにしてローテーブルが置かれていた。
そして窓際には、教員室にたくさん並べられているようなデスクが一つぽつんと置かれている。
獄寺と山本はそっと起こさないように綱吉を一つのソファに寝かせる。
その間、雪と未来は探検するようにその部屋を模索した。
「マフィアたるもの、アジトの一つや二つは持たなくちゃいけねぇ。この部屋はちょうどいいだろ」
「……学校の一室を勝手にアジトにするのもどうかと思うけど」
リボーンの堂々とした佇まいに、苦笑を漏らす雪。
だけどその教室は居心地は悪くなさそうで、いろいろ持ち込めばどうにも楽しめそうな一室であった。まんざらでもなさそうに、彼らは部屋を眺める。
「まぁ、今のところボンゴレのメンバーはみんな並盛だしね。アジトが並中の中にあっても不思議じゃないか」
「ははっ、なんか子供ん頃にやってた秘密基地探しみてーでわくわくすんな!」
「っざけんな野球馬鹿! お遊びじゃねぇんだよ!」
そう言い争いをする二人は、だがその実楽しそうである。
そんな二人を置いて、未来はデスクのほうに近づき何を思うでもなく一番手前の引き出しを引いてみた。
どうせ空だろう、と踏んでいた引き出しの中はだが資料が入っていて。それを眺めた未来は、やがて息をのんだ。
「…………これって」
そんなつぶやきが未来の口から洩れると同時に、その部屋の扉が開かれた。
扉の向こうに立っていたモヒカン頭の到底同い年とは思えなさそうな容姿の男数人は、中にいた四人と同じだけ驚きの表情を浮かべていた。
「お前ら、ここで何をしている?」
「誰に断ってここへ入ってきた!」
「あ? おめぇ等こそなんのようだ」
学校一のチンピラと名高い獄寺は、彼らに臆することなく歩み寄りガンをつけにいく。
「生意気な口を利くな! ここは俺達風紀委員会の部屋に決まったんだ」
その言葉にようやく未来は彼らの服へと視線を移した。
少しだけ見覚えがある学ランに腕章。「あー」と気の抜けた声を出した彼女は、顔を少しずつ青ざめさせていく。
だが部屋の中のだれもが扉の出来事に気を取られすぎて、そんな彼女に気づく者はいない。
数人のうち一人がずかずかと戸惑いもなく部屋の中へ入り、ソファで転がっている綱吉に気づいた。
「なんだこいつは?」
ただそれだけを言うと、右足でソファを力強く蹴る。
大きく揺れるソファ。だがそこで寝ている綱吉は目覚めない。けれど、それは綱吉率いるボンゴレ10代目守護者候補者のうちの狂犬をいらだたせるのには十分だった。
「……やろぉ……」
「待って、隼人!」
すぐさま未来は制止の声をかける。
だけど火のついた狂犬はもちろん止まらない。彼は自分が崇拝するボスを侮辱されたのだ。
「うぜぇんだ……よ!」
拳をきつく握り、何も躊躇せずに風紀委員であろう男の一人の横っ面にその拳を叩きこむ。
いともたやすく吹っ飛ばされた男にもう興味を持つことはなく、すぐさま獄寺は次の相手をとびかかる。そしてそのまま、次々と相手を倒していく。
窓際で様子を伺っていた山本が、ため息をついた。
「……やれやれ……しゃあねぇな」
「このガキが!」
一人の風紀委員がモップを持って獄寺に殴りかかろうとした……が、それを山本に止められた。
ぎっちりとモップの柄を握りこむ山本の握力は、傍から見てもその風紀委員のそれを上回っていた。
「モップは掃除に使うもんだろ」
そういって、振り回していたモップを掴まれて唖然としている風紀委員を思い切り殴り倒した。
それを見た数人が慌てて山本を倒しにかかろうとするが、なぜか凍っていた床に足を滑らせて固い床に頭を打ち付け気を失った。
山本が「お?」と声をとともに雪のほうへと視線をやると、それを受けた雪はぱちんとウインクを返した。
「あ……あー……」
「どうしたの、未来?」
いつもはイノシシのように好戦的な未来は、今回珍しく一人も倒していないどころか一歩も動いていない。
それに気づいた雪は声をかけるが、うまく返答ができないようだ。
そんなのはお構いなしに、のうのうとコーヒーを沸かしていたリボーン。そしてようやく顔を上げて口を開いた。
「済んだか?」
リボーンがそう問うと、二人は当たり前と笑った。
床に転がる死屍累々。そのど真ん中に立って笑う二人はどう見てもシュールである。
「コーヒー入れといたぞ」
「お、サンキュ」
山本はカップを二つ受け取って、一つを獄寺に渡した。
リボーンは女子二人にもコーヒーを勧めたが、雪はやんわりと断る。そして未来は無視して爪を軽く噛んだ。
「どうしたの、未来さっきから」
「いや……違う、やっぱり」
「え?」
「リボーン……この部屋から今すぐ出たほうがいい」
「何言ってんだお前?」
コーヒーを飲みながら獄寺は首をかしげる。
そんな獄寺に未来は噛みつく。
「違うんだよ! あぁ、そうか、隼人も雪も出会ったことがない。風紀委員、ってことは、つまりあの人なんだよ」
「え、まさか……」
もとからこの学校にいる山本は、何かを思い出したように顔をあげる。
未来と顔を見合わせると、未来はうなずいた。そして口を開き続けて言おうとする。
「――ひ」
「……番犬の役にも立たない」
遮られた言葉に、全員の視線がまたもや入り口へ向かう。
そこには、彼らと同年代と思しき少年の姿があった。
「……君達、何者?」
「……こいつは、雲雀 恭弥」
「あぁ? なんだ……おめぇもこいつ等の仲間か?」
何も恐れるものはないといった風に雲雀に歩み寄る獄寺を、山本は急いで止めた。
「獄寺!待て!」
だが先ほどのように、獄寺は聞く耳を持たない。
コーヒーカップを片手に、眉根を寄せ雲雀を睨む。
「ここはたった今から俺達ボンゴレファミリーのアジトになったんだよ」
「……ファミリー? 何の群れだい?」
「群れ? いいから出てけ――……」
ガラスが割れる音がして、獄寺は床を見る。
そこには、こぼれたコーヒーと割れたコーヒーカップ。そして獄寺の手には、わずかにコーヒーカップの取っ手のみが残っていた。
「!? なんだこいつ!」
一瞬でやばいと感じ取った獄寺は、後ろへ飛ぶ。
そして両手を前に出し臨戦態勢をとった。
「……これ、どういうことなんだい? 高城 未来」
「あっ見つかった」
「いやそりゃ見つかるよ!」
カーテンにくるまって隠れようとしている未来は必死だが、残念ながらそのカーテンの隙間から青髪が出てしまっている。
日本というこの国で、しかも並中の中で青い髪を持つのは彼女だけである。
「どういうことだ、未来? こいつと知り合いなのかよ?」
「……知り合いっていうか……」
「あれ以来どれだけ呼び出ししても来ないし。君の風紀委員一式、いい加減受け取りなよね」
「えっ、未来って風紀委員だったのか!?」
「違いますー! 押し付けられたんですー!」
カーテンがまるで防御力の高い盾かのようにそれを抱きしめ身を隠す未来は、雲雀から数メートル離れた地点から文句たらたらと叫ぶ。
ちなみに未来の風紀委員勧誘について詳しくは未来過去編を参照するといい。
「……まぁいいや。ここにいる草食動物を駆除してから、君には群れていた罰と今までの手間の分、咬み殺させてもらう」
「……勘弁してください、風紀委員長……」
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