無理矢理なあの人

「高城、お前ちょっと来い」


授業終了後、そう未来は教師に呼ばれた。
心なしかその教師は、青ざめている気がした。
いや、気がしたなどではなく明らかに青ざめている。


「……なんですか、先生」


教室の外に連れ出された未来は、そう教師に対峙する。
青ざめたままの教師は、さらに顔を青白くさせ未来の肩を掴む。


「高城、お前いったい何をしたんだ……!?」
「……何もしてませんよ?」


眉根を寄せ、理解不能という顔をする未来。
確かにこの数日の未来は大人しすぎて、逆に褒められるべきだというほどだった。
テストの結果も上々だし、何故褒められる代わりに恐ろしい顔で心配をされるのだろうと未来は首を傾げる。


「……雲雀さんがお前を、呼んでいるそうだ」
「…………雲雀さん?」


どこか聞き覚えがある名前だ、と未来は首を捻る。


「この学校の最大権力、風紀委員長でありながら不良の頂点に君臨する男だ」
「……全然覚えてない」


彼女にとって、親しくない者の顔は覚える意味がないのだという。
だからこそ、あんな印象的な出会いをしていた彼のことも、すっぽりと頭から抜けてしまったのだろう。

とにかく行け、と教師に押し出されながら未来は歩く。
後ろにはしっかりと教師が怯えながらもついてきていて、行先を教えてくれる。
それでも未来は何が何だか分からないまま、その道を歩くしかなかった。


「……遅いよ、君」
「も、申し訳ない……!」


不機嫌そうな目の前の男子生徒と、明らかに生徒に頭を下げる教師。
そんな威厳の返上のような状態に、だけど未来は呆然としていた。頭の中は素早く思考が行き交っているようだ。


「……あんたか」
「やぁ、久しぶりだね高城 未来」
「……雲雀、さん? 何の用なの、わざわざ教師使って呼び出して」
 

少しも敬語を使わない未来に、教師は少し怯えを含んだ目でそちらを向く。
だがそれでもわが身が可愛いのか、慌ててその身を翻し退散した。


「……君に、興味があるんだ」


そう、言葉を放った途端。
未来の目の前でトンファーが一線を描いた。


「……ワォ」


至極楽しそうな雲雀の笑み。
だが、それに引き換え未来は血の気が引き、指先の冷たさすら感じていた、
まさか、学校で、しかも出会い頭に攻撃されるとは思わなかったのだろう。
辛うじて避けることはできたが、あと一秒でも反応が遅ければ一網打尽だったかもしれない。
その考えが、未来をぞっとさせた。


「……何のつもり?」
「よく避けられたね」
「……どうも……ッ」


二回目、三回目の攻撃が繰り出される。
それを未来は辛うじて避けるが、やがて壁に背中をつく。
目の前で四回目の攻撃が放たれる。
それを認識した瞬間、未来は腕を振り上げた。

耳を塞ぎたいほどの金属音が鳴り響く。
びりびりとした衝撃が未来の腕に伝わり、未来は思わず歯を食いしばる。


「……それ、何の手品だい?」


何も持っていなかったはずの未来の手には、今彼とまったく同じトンファーがあった。


「……悪いね、借りるよ」


心底嫌そうな顔をしながら、未来は仕返しとばかりに攻撃を仕掛けた。
だがどの攻撃も、いともたやすく雲雀によって避けられてしまう。
トンファーを使い慣れない彼女にとっては、トンファーを使い慣れている雲雀と戦うには分が悪すぎるのだ。

だが、そう考えれば未来には一切勝ち目はない。
何故なら、他人の技をコピーして自分の体にペーストし、相手と同じ武器を手に入れるという未来の技は、それでもやはり相手と比べると劣ってしまうのだ。
それが武器ならば使い勝手の問題だったり使い慣れない問題だったり、それが技だったならばその技を持ち主のように100%力を引き出すことは不可能なのだ。

例えば彼女は一度9代目の技を写し取り、自分で使ってみた。
が、どう足掻いてもギリギリ99%しか力を引き出せず、残りの1%がどうしても越えられない。
そしてその1%が、彼女にとっての致命傷だ。

そして何より、他人の真似ばかりをしている未来には、「自分だけの技」が、「自分だけの武器」がない。
つまり、どうしても彼女は「使い慣れない」「使いにくい」「本領発揮できない」ハンディキャップを背負ったまま、敵と戦わなければいけなくなるのだ。


「ッ……!」


やがて未来のトンファーは弾き飛ばされ、その衝撃に未来は顔を顰める。
ついに壁際まで追い詰められ、未来は絶体絶命に面する。

だが雲雀はそのトンファーを振り下ろすことはせず、ただ笑みを浮かべた。


「……君、風紀委員に入りなよ」
「……は?」
「特別に許可してあげる。気に入ったからね」


そう身を翻す雲雀に、未来は何もかもがさっぱり理解できずにただそこに蹲った。

ちなみにそのあと渡された風紀の学ランと腕章に、彼女が袖を通すことは一度もなかった。

[ 7/24 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]


indietro


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -